2021年07月23日 1683号

【最低賃金改定論議に当事者の声を 全国一律時給1500円に 引き上げは待ったなしだ】

 6月22日、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は、2021年度の最低賃金改定の「目安」について議論を始めた。菅政権のいわゆる「骨太の方針」(6/18閣議決定)などをもとに7月中に議論をまとめるとされている。

 今年の「骨太の方針」は「格差是正には最低賃金の引き上げが不可欠。…生産性向上等に取り組む中小企業への支援強化、金融支援等に一層取り組む」と中小企業問題にも言及。「最低賃金は、地域間格差にも配慮しながら、より早期に全国加重平均1000円とすることを目指し、本年の引き上げに取り組む」と記す。

 これに対し、日本商工会議所など中小企業3団体は「最低賃金に関する要望書」を発表し「足下の景況感や地域経済の状況、雇用動向を踏まえ、『現行水準を維持』」を求めた。

 昨年、安倍前政権は骨太方針で「平均1000円への引き上げ方針は堅持」としながらも「雇用を守ることが最優先」として最低賃金の抑え込みを図り、加重平均で1円(0・1%)引き上げと実質ゼロだった。今年は「早期に全国平均1000円を目指す」と明記し、6月22日の諮問の場でも強調した。菅政権の政策には、一定の最低賃金引き上げとセットでの中小企業の淘汰・再編(=倒産・廃業の加速)、低いとされる中小企業の「労働生産性向上」戦略が透けて見える。

地域間格差は不当

 20年度の最低賃金は、全国平均で902円。最高は東京都1013円で、最低は792円(秋田、鳥取、島根、高知、佐賀、大分、沖縄)と格差が大きい。

 毎年、中央最低賃金審議会の資料とされる標準生計費(人事院)によると、20年の単身世帯(月額)の標準生計費の最高額は、埼玉県の16万2150円、2番目が和歌山県の15万5517円、最下位は愛媛県の7万4650円となっている。最低賃金が最も高い東京都は12万6390円で埼玉県との差は3万5760円もあり、福岡県の12万8710円よりも低い。また、19年に最高額だった兵庫県23万6300円は、20年には8万7540円と14万8800円も下がっている。このように支離滅裂な数字を根拠に地域間格差が作られていること自体が根本的に間違っている。

 当たり前に人間らしく暮らせる最低生計費が大都市部でも地方都市でもほぼ同額であることは多くの調査で明らかだ。全国一律1500円実現は待ったなしだ。

世界は時給1500円時代

 欧米では、コロナ危機下でも労働者の闘いに押され、経済回復を見据えた最低賃金の引き上げを行っている。

 米国では、バイデン大統領が連邦政府と契約する企業の最低賃金を時給10・95j(1194円)から15j(1635円)に引き上げる大統領令に署名した。

 フランスでは21年1月、最低賃金が9・76ユーロ(1288円)から10・03ユーロ(1324円)に引き上げられた。ドイツでは、21年1月に9・35ユーロ(1234円)から9・5ユーロ(1254円)となり、さらに22年7月には10・45ユーロ(1379円)へ引き上げられる。イギリスでも、21年4月から25歳以上の最低賃金が8・72ポンド(1334円)から8・91ポンド(1363円)に引き上げられた。

 世界は最低賃金1500円が現実のものとなる時代に入った。日本だけが、人間らしい生活のできない最低賃金でいいわけがない。

中小支援 大企業規制も

 最低賃金近く(最低賃金×1・15未満)で働く労働者は、中小零細が多くを占める卸売・小売業の女性労働者のうち34・48%(約98万人)にのぼる。同様に宿泊業・飲食サービス業では女性労働者の46・74%(約53万人)が最低賃金近くの低賃金労働者だ。これらの業種の大半がコロナ禍による深刻な打撃を受けているが、中小企業淘汰・再編をめざす菅政権は必要な補償、支援を行っていない。

 最低賃金を直ちに時給1500円に引き上げることが必要だ。危機的状況の中小企業への抜本的な支援策を行うと同時に、労働生産性の低さを引き起こすグローバル企業による市場占有、絶対的な発注価格支配・収奪体制への規制こそ強化しなければならない。

    (7月12日)

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