2021年07月23日 1683号

【東京五輪反対を「反日」認定/“戦犯”安倍は引っ込んでろ/「絆」と言うが、「分断」の象徴】

 大半の会場が無観客開催となった東京オリンピック。「コロナに打ち勝った証し」にすると吹いた政府が「コロナを侮った報い」である。ところが、呪いの言葉を吐いた張本人は政治的復権に向け意気軒高だ。ミスター厚顔無恥こと安倍晋三前首相その人である。

ネトウヨと同レベル

 「人類がウイルスに打ち勝った証しとして(東京五輪パラリンピックを)開催する決意だ」。菅義偉首相は昨年10月の所信表明演説でこう言い切った。専門家が「無観客開催」を提言しても、「観客がいないと、コロナに負けた感じがする」(6/16朝日)として応じてこなかった。

 菅を呪縛したこの言葉、言い出しっぺは前首相の安倍晋三である。自身の判断で大会の1年延期を決めた際に「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして、完全な形で東京五輪を開催する」と語ったのが発端だった。

 その後、政府は「五輪開催優先」でコロナ対策を怠り、感染拡大・医療崩壊を引き起こした。普通の感覚の持ち主なら責任を痛感して反省するところだが、安倍は違う。大ピンチの菅を尻目に「自分の出番だ」とばかりにはしゃいでいる。

 たとえば、「反日的な人が五輪開催に強く反対している」との発言である。『月刊Hanada』8月号に掲載された櫻井よしこ(ジャーナリスト)との対談で、安倍は「歴史認識などにおいても一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対しています」と述べ、共産党や朝日新聞の名前をあげた。

 この対談が行われた時点で、五輪開催に反対の世論は6割を超えていた。安倍の理論だと、日本の人口の6割は共産党支持者ということになる。脱線ついでに言うと、五輪開催に懸念を示したとされる徳仁天皇も「反日」認定するつもりなのか。ネトウヨと同レベルの迷言と言うほかない。

空虚な精神論

 安倍・櫻井対談を収録した『月刊Hanada』8月号は「東京五輪はコロナに負けない!」と銘打った特集号であった。雑誌全体が五輪開催反対世論に対抗するための「ヘイト右翼の意思統一文書」という体裁なのだ。対談で安倍は東京五輪を行う意義を次のように述べている。

 (1)「日本人の誇り」を持たせるため。「同じ感動をしたり、同じ体験をしていることは、自分たちがアイデンティティに向き合ったり、日本人としての誇りを形成していくうえでも欠かすことのできない重要な要素です」

 (2)コロナ禍の中で「絆」の再確認。「(日本人選手の)頑張りに感動し、勇気をもらえる。その感動を共有することは、日本人同士の絆を確かめ合うことになると思うのです。お互い協力し合い、協調し合い、助け合う絆に繋がっていくのではないか」

 (3)中国への対抗心。「来年は北京冬季オリンピックが予定されていますが、自由と民主主義を奉じる日本がオリンピックを成功させることは歴史的な意味があり、また日本にはその責任がある」

 (1)と(2)について言うと、あまりに空虚な精神論に絶句してしまう。(3)は露骨な政治利用論だが、これを言った直後に“中止論は倒閣運動で、五輪の政治利用にあたる”と批判しており、一貫性がない(安倍の主張に論理的整合性を求める方が間違いかもしれないが)。

 いずれにせよ、パンデミック下でのオリンピック開催という非常識を正当化する理由にならないことは明らかだ。自民党内には「菅が総理では総選挙を戦えない」として安倍の再々登板を望む声があるが、世論を完全になめている。

やはり中止しかない

 今や東京五輪は「絆」どころか「分断」の象徴になり果てた。長期にわたる我慢を市民に強いていながら、なぜ五輪を強行するのか。感染防止のために音楽イベントや祭り、各種学校行事が軒並み中止なのに、なぜ五輪だけが許されるのか。人びとの不満は爆発寸前に高まっている。

 それなのに菅首相は、コロナ禍の中の大会だから意義があると強調する。「世界で40億人がテレビを通じて視聴するといわれるオリンピック・パラリンピックには、世界中の人々の心を1つにする力があります」(7/8記者会見)と。

 無観客は痛いが、マスメディアの協力は取りつけており、「一体感」や「感動」の演出は可能。それなら十分成功をアピールできるというわけだ。安倍と同じく、世論をなめている。

 だからこそ、「オリ・パラを中止してコロナ対策を優先しろ」という当たり前の声を上げ続けることが大切なのだ。あきらめて黙ってしまえば、安倍・菅の民主主義破壊政治を認めたことになる。    (M)

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