2021年07月30日 1684号

【コラム見・聞・感/五輪学校観戦 背景に福島での「成功体験」あり】

 新型コロナ感染拡大の中で、日本はあり得ない五輪強行開催に向かって突き進む。一度決まった「聖戦完遂」の方針を変更できない日本の姿が戦時中の軍部の愚かな姿と重なって見える、との意見も多い。

 だが筆者が想起したのは高濃度の放射能汚染が残る原発事故後の福島で、子どもたちを大量動員して行われた国道清掃活動だ。

 筆者は、2015年頃を中心にこの活動が数回、行われたのを確認している。浜通りを南北に貫く国道6号線で清掃活動に子どもたちを駆り出す。キャッチコピーは「みんなでやっぺ!きれいな6国」だった。

 主催者はNPO法人「ハッピーロードネット」(西本由美子理事長)。筆者の手元に残るチラシを見ると、国交省、環境省、復興庁、福島県、地元市町村、青年会議所、県内紙2紙、警察やトラック協会、果ては東京電力までが後援に名を連ねている。地方の民間NPO団体主催行事としては異例中の異例だが、これにはもちろん理由がある。西本理事長が「憲法改正を求める1000万人ネットワーク」役員を務める改憲派であることに加え、あの安倍昭恵前首相夫人までこの活動を支援していたことだ。モリカケ問題と同じ「国策安倍案件」として地元の総力を挙げ強行されたのである。取材を受けても申し合わせたかのように「復興の役に立ちたい」以外の理由を語らない子どもたちの姿に、教育による洗脳の恐ろしさをまざまざと見せつけられた。

 驚くことに、西本は今回の東京五輪でも聖火ランナーを務めた。菅政権の自称「復興五輪」とやらの盛り上げに一役買った気でいるのは間違いない。すべての悪はつながっていることを示す1つの好例だが、「復興五輪」「人類がコロナに打ち勝った証」などと後付けでコロコロ「変更」された開催目的も、無観客開催となったことで風前の灯火になろうとしている。

 東京都内を中心に多くの市民から「学校観戦強行やめろ」の声が上がったことにもちろん感謝はしているが、同時にやりきれなさも感じる。同じ声がなぜ6年前にも上がらなかったのか。大人による一方的「学徒動員」から福島の子どもたちは助からず、なぜ東京の子どもたちは助かるのか。この6年間で時代が少しだけ進んだと前向きに捉えたいのだが、それでも元福島県民としてモヤモヤは消えない。

     (水樹平和) 
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