2021年07月30日 1684号

【世論に嫌われ、支配層も見限る/菅政権 五輪を前に 断末魔/無理筋五輪はすぐに打ち切れ】

 コロナ禍の中で東京オリンピックが開幕する。だが、「五輪で政権浮揚」という菅義偉首相の思惑は吹き飛んだ。内閣支持率の落ち込みが示すように、この政権はもう終わっている。いくらメディアを使って祝祭ムードを演出しようが、無理なものは無理なのだ。

支持率3割を切る

 時事通信の世論調査(7/9〜7/12)によると、菅内閣の支持率は前月比3・8ポイント減の29・3%となった。政権発足以降の最低値で、初めて「危険水域」とされる20%台に落ち込んだ。内閣支持率の3割割れは、加計学園問題で安倍政権が揺れていた2017年7月以来のことである。

 一方、不支持率は過去最高を更新し49・8%に(前月から5・6ポイント増)。自民党の政党支持率も低下した(前月比1・4ポイント減の21・4%)。

 同時期に行われた読売新聞の世論調査も、政府・自民党にとって厳しい結果となった。内閣支持率37%は最低だった6月調査から横ばいだが、東京都に限ると28%しかない。6月から3ポイント、5月からは12ポイントの大幅下落だ。

 不支持率も全国53%に対し東京都は63%など、あらゆる指標において都民は菅政権に厳しい視線を向けている(表参照)。先の都議選での自民党「惨敗」は必然だったということだ。「国民のために働かない」政権に、人びとはノーを突きつけたのである。





 具体的には、コロナ愚策と東京五輪ゴリ押しへの怒りが大きい。政府の新型ウイルス対応を「評価しない」は全国66%に対し、都は69%。4度目の緊急事態宣言については、実に都民の73%が「効果があるとは思わない」と答えた。

 「五輪をどうすればよかったか」という問いには、都は「中止」が50%(全国41%)で、「無観客で行う」28%(同40%)を大きく上回った。「無観客」という小手先のごまかしに人びとが納得していないことは明らかだ。

 この結果を受け、読売新聞は「東京五輪開催による政権浮揚も望めそうになく、自民党内からは内閣改造を求める声も出始めている」(7/13)と報じた。政府べったり新聞の突き放した報道ぶりは、支配層が菅政権を見限りつつあることのサインとみていい。

脅かすだけの政治

 「勝手に決める」「説明しない」「都合が悪い事実を隠す」「バレても知らぬ存ぜぬを決め込む」――菅政権の行動パターンはこのくり返しだ。新型コロナ対策として打ち出した「酒提供停止圧力5点セット」がまさにそうである。

 (1)飲食店での酒の提供停止を徹底させるため、店に融資している金融機関に働きかけを依頼。(2)酒を出している飲食店との取引停止を酒類販売事業者に求める。(3)要請に応じない飲食店との取引停止を酒類販売業者への支援の条件にするよう都道府県に通知。(4)飲食店をメディアや広告で扱う際、順守状況に留意するよう依頼を検討。(5)グルメサイトを使い、飲食店の感染対策情報を利用客から収集。

 規制権限をちらつかせた脅迫、密告の奨励以外の何ものでもない。憲法が保障する「営業の自由」や「表現の自由」を無視した暴挙に批判が殺到したのは当然で、いずれも撤回・見送りに追い込まれた。

 この問題では西村康稔・経済再生担当相が首謀者として叩かれているが、決して西村個人の暴走ではない。政府ぐるみで進めようとしていたことだ。西村は「総理の了解まで得ていたのに、はしごを外された」と周囲に漏らしているという(7/15西日本新聞)。

 そもそも、恐怖支配や裏工作は、菅義偉という政治家の得意技である。この首相にしてこの大臣ありなのだ。それなのに、菅は「承知していない」「議論していない」の一点張りで、自身の直接関与や責任を認めようとしない。

 このような場面を何度見てきたことだろう。説明責任を果たさず、強権的手法で服従を迫るだけの菅政治に、人びとが愛想をつかすのは当たり前である。

政権浮揚は無理

 「五輪だけは開催しておいて、飲食店はろくに開店もできない。行き当たりばったりのコロナ対策には、もううんざりですよ」(都内で飲食店を営む男性)

 「五輪ありきの緊急事態宣言、五輪ありきの酒提供禁止。政府は赤字でもメンツを守るため五輪やりたい。ありえない、それしか。僕は五輪全く見るつもりない。喜んで見られない」(都内の酒卸店店主)

 「高齢な上に持病もあって感染すると重症化の危険性が高い。よそから町に人が来ることに心配が尽きない」(宮城県内の町内会長。有観客で行われるサッカー競技の会場がある)

 「守られるのは五輪関係者のみ。何が復興五輪なのか。復興という言葉を簡単に使ってほしくない」(河北新報社のアンケートに答えた40代女性)

 オリンピック開幕直前の街の声を拾ってみた。政権への追い風どころか逆風が吹き荒れている。洪水のような五輪報道が始まれば、菅の陰気な顔を観る機会が減るので、支持率は多少上がるかもしれない。しかし、それは一時的なものである。五輪でコロナ禍が収まることなどないからだ。

 新型コロナウイルスの感染状況は、感染者数が過去最大となった第3波に近づいている。感染拡大の背景には変異株の影響や人の流れの増加があるとみられ、専門家は「首都圏から全国に影響する懸念」や「医療提供体制がひっ迫することへの危機感」を表明した。

 菅首相は6月9日の党首討論で「国民の生命と安全を守るのが私の責務だ。守れなくなったら(東京五輪を)やらないのは当然だ」と明言していた。今がその時だ。ただちに打ち切るべきである(パラリンピックは中止)。「無理筋でも始めたらやめられない」というのは、かつての日本軍と同じ過ちである。 (M)

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