2021年08月27日 1687号

【東京五輪は終わったけれど…/オリンピック災害 継続中/コロナ感染爆発、巨額の赤字】

 東京オリンピックにレガシー(遺産)があるとすれば、「五輪はクソ。やってはいけない」という事実を世界中の人びとに知らしめたことだろう。新型コロナウイルスの感染爆発に、巨額の赤字。菅内閣の支持率が五輪開催前よりも落ち込んだのは当然だ。

急拡大した感染

 数々の炎上騒動を引き起こしてきたIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長がまたやらかした。五輪功労章の最高位にあたる金章を菅義偉首相と小池百合子都知事に特例で授与したのである。

 このニュースが流れると、ネットは怒りの声であふれ返った。「国民の声を無視して五輪を強行したことが名誉になるのか」「IOCにとっては功労者かもしれませんが、日本国民からしたらこの2人は戦犯です」「ついでに2人を持って帰ってくれ。どう処分してもいいから」等々。

 当然の反応だろう。金章コンビによる五輪強行は人びとに災いをもたらしたのだから。まずは、新型コロナの感染急拡大だ。国内の1日あたり感染者数は大会期間中に3倍増えた。東京都は重症患者数が過去最多を更新し続けるなど「制御不能な状況」に陥った。

 都のモニタリング会議は「通常医療も含めて医療提供体制が深刻な機能不全に陥っている。さらなる重症患者の増加は医療提供体制の危機を招き、救命できる可能性がある多くの命を失うことになる」と強い危機感を示した(8/12)。実際、医療を受けることができずにコロナで命を失う「自宅死」が急増している。

 感染爆発の主要因は感染力が強いデルタ株の広がりだが、パンデミック下での五輪開催も大いに“貢献”した。政府の基本的対処方針分科会に参加している医師が、「『家で自粛してください』って言って、オリンピックをやっているわけですから。全然一貫したコミュニケーションになってないですよね」と指摘するとおりである。

社会の分断の縮図

 それなのに、オリンピック強行勢力は五輪無罪説を唱え続けている。菅首相は「東京の繁華街の人の流れは五輪開幕前と比べ増えていない」として、「五輪が感染拡大につながっているとの考え方はしていない」と強調した(8/6)。小池知事に至っては「オリンピックはとてもステイホーム率を上げている」と、感染抑止に役立っているとまで言い放った(7/29)。

 このような詭弁を弄する政治家が「不要不急の外出や都県境を越える移動の自粛」を求めても、説得力はゼロである。「国境を越える運動会はいいのか」と逆襲されるのがオチだ。

 一方、バッハ会長は「コロナ対策は成功した」と豪語した(8/8)。なるほど選手や大会関係者の陽性率(0・02%)を見る限り、外界と切り離されたバブル内の感染は抑制されたという見方もできる。しかし、選手村のようなきめ細かい検査を受けることができないバブル外では市中感染が広がっていった。

 救急医として五輪会場に派遣された医師は、バブルの内と外では「天国と地獄のよう」と表現する(8/8ロイター)。彼が勤務する病院の高度救命救急センターは重症病床が満杯の状態にあるという。

 このように、東京五輪は現代日本の分断を浮かび上がらせた。オリンピック開催という国策が最優先され、一般市民の健康や生活は置き去りにされたのである。それはまさに、「公助」の責任を放棄し「自助」を強要する菅流新自由主義政治の縮図であった。

3兆円の赤字か

 「開催前はもやもやしたものがありましたが、新型コロナで沈んでいる中で、テレビでオリンピックを観戦できたのは元気の材料になったと思います」(30代女性)。閉会式直前の夜7時に放送されたNHKニュース(8/8)は、このような「街の声」を伝えた。菅政権の意向に沿った露骨な世論誘導である。

 とはいえ、「オリンピックには税金が使われていて、今後、当然その負担がかかってくるわけですから、率直に言うと心配です」(70代女性)といった声も。巨額の赤字を懸念する意見をまったく無視することはできないということだ。

 米紙「ニューヨーク・ポスト」(7/26電子版)は、著名な経済学者による東京五輪の収支予測を紹介。「損失を取り戻す方法がなく、少なくとも300億ドル(約3兆3000億円)を失うだろう」と指摘した。

 契約上、IOCは責任を負わない。政府と東京都の間で赤字負担の押しつけ合いが始まっている。いずれにせよ、私たちの税金を巨額損失の埋め合わせに使おうとしているのだ。

 組織委員会分の費用を除いた「大会経費」と「関連経費」の合計額から週刊ポスト(8月13日号)が試算したところ、都民1人あたりの税負担は約10万4千円にもなる。4人家族なら世帯負担額は42万円弱。「元気をもらえた」で納得できる金額ではない。

支持率最低に

 「五輪がなかったら、国民の皆さんの不満はどんどんわれわれ政権が相手となる。厳しい選挙を戦わないといけなくなる」。自民党の河村建夫元官房長官はこう述べていた(7/31)。

 しかし、実際には政権が期待したほどの弾除け効果は得られなかった。朝日新聞の世論調査(8/7〜8/8実施)によると、菅内閣の支持率は28%で、発足以降の最低値を更新した。不支持率は53%だった。「五輪を政権の追い風にして衆院選勝利」という思惑は完全に外れたのだ。

 グローバル資本の利益と自分の延命のために五輪を強行し、コロナ感染を広げた菅首相の責任は重い。小池知事も同罪だ。2人にとって責任の取り方はこれしかない。すなわち、ただちに辞めてくれ。 (M)



 
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS