2021年09月03日 1688号

【アフガニスタン政権崩壊と米軍撤退/グローバル資本の戦争政策は敗北】

 アフガニスタン政権崩壊―米軍撤退の最大の意味は、アフガニスタン戦争を引き起こしたグローバル資本の戦争政策が敗北したことである。アフガニスタン民衆は、タリバン政権との闘いに直面する。民衆への一層の国際連帯が問われる。

 米バイデン政権の米軍アフガニスタン撤退とともに4月以降、イスラム主義組織タリバンが国内を席捲(せっけん)。8月15日にはアシュラフ・ガニ大統領が国外逃亡し、政権は崩壊。タリバンが権力を手にした。


「9・11テロ」と「報復戦争」

 事の発端である2001年「9・11テロ」とそれを口実としたアフガニスタン戦争から検証する。

 01年9月11日、旅客機4機がハイジャックされ、2機がウォール街があるニューヨーク市マンハッタンのワールドトレードセンターに次々と激突、タワービルは周辺建物を巻き込みながら崩壊した。1機は、米国防総省に突入し、残る1機は墜落した―とされる「9・11テロ」。経済・軍事はグローバル資本の力の源泉であり、その象徴が破壊された。

 その3日後、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)は、「対テロ報復戦争」として大統領に武力行使の権限を与える連邦議会決議(AUMF)で開戦の白紙委任状≠手にした。次いで国内統制のため、市民への人権侵害を一気に強める「愛国者法」を制定した。

 米国内の戦争体制を整えつつ、ブッシュは「9・11テロ」を国際的なイスラム主義武装勢力・アルカイダの犯行と断定。アフガニスタンのタリバン政権がアルカイダの頭目ウサマ・ビン・ラディンらをかくまっているとして10月7日、米国・NATO(北大西洋条約機構)など「有志連合」による空爆を開始した。世界の最も豊かな国々が、最貧国の一つアフガニスタンを袋叩きにしたのだ。

覇権と利益のための侵略戦争

 ブッシュ政権に侵略戦争をさせたグローバル資本の狙いは何か。

 まず、冷戦終結によって「唯一の超大国」となった米国の軍事・経済力に物を言わせ、覇権を握ることだ。米国に敵対する勢力を徹底的に叩き潰し軍事力を誇示するために、イスラム主義者であるタリバン政権を標的とした。同時に米国を中心の秩序形成をめざし、国連すら無視し「この指とまれ」式の有志連合に参加する国を募る。

 日本の小泉純一郎政権(当時)は、ただちにブッシュの「報復戦争」を支持。後に、「有志連合への海上自衛隊によるインド洋上給油」として兵站(へいたん)を担い参戦する。米―多国籍軍の占領後は、米国が送り込んだアフガニスタンの傀儡(かいらい)政権を東京に招き、「復興会議」なるものを主催。多額の「援助」で占領・介入を支えた。

 アフガニスタン戦争は、米国の軍事力を支える軍産複合体に莫大な利益を提供するための戦争でもあった。爆弾・ミサイルの在庫処分、最新兵器の見本市となった。「対テロ戦争」を契機に、米国の軍事支出は急激に増えていった。

 また、エネルギー産業の権益確保でもあった。アフガニスタンを含む中央アジアは、カスピ海周辺の天然ガスをはじめ地下資源が豊かだ。タリバン政権排除から傀儡政権の擁立と米軍の駐留で、ロシアに対抗し中央アジアでの米国の影響力を拡大。エネルギー産業へ利潤を提供した。傀儡政権を通じた「復興事業」は、巨大な多国籍複合企業にも利益を与えた。

 このように、アフガニスタン戦争とその後のイラク戦争は、軍産複合体や巨大ゼネコン、エネルギー産業をはじめ、様々な分野のグローバル資本の利益を保証するために遂行された。

 だから占領軍は02年、CIA(米中央情報局)協力者でエネルギーコンサルタントのハーミド・カルザイを大統領に据え、長年政権を担わせた。14年には、その後継として世界銀行に勤めた後カルザイ政権の財務大臣となっていたガニを大統領とした。米国の傀儡・腐敗政権であることは誰の目にも明らかだった。

膨大な民衆の犠牲 泥沼化する戦闘

 グローバル資本の利益のために戦争の犠牲になったのはアフガニスタン民衆だ。

 中でも、空爆で多用された「クラスター爆弾」は子どもたちに牙をむいた。この爆弾は、数百個の小さな爆弾をコンテナに詰めたもの。投下されたクラスター爆弾は地表近くで子爆弾をばら撒き、不発弾はそのまま地雷となる。子爆弾は上空から投下される救援物資と同色の黄色で、多くの子どもたちが誤って不発弾に触れ、犠牲になった。米軍は救援物資が投下された地点を狙い、クラスター爆弾をばら撒いていた。

 米軍は「誤爆」と称し意図的な無差別爆撃を重ね、民衆もろとも「タリバン残党」らの掃討作戦を続けた。

 その結果、01年〜15年まで民間人犠牲者は少なくとも2・6万人(米・ブラウン大、15年)、09年〜19年までの戦闘による民間人死傷者は10万人以上(国連、19年)と推計されている。

 民衆の命を奪い、グローバル資本の権益のみ追求した名ばかりの議会制民主主義≠焉u政府軍」も、民衆の支持が得られるはずもなく、戦闘は泥沼化。米国史上最長の戦争で米軍は撤退を余儀なくされた。

 米軍の後ろ盾をなくしたガニ大統領は貯めこんだ私財と共に国外逃亡。グローバル資本の戦争政策は完全に失敗したのである。

タリバンの人権抑圧との闘いに連帯

 「9・11テロ」は、米国内のみならず、世界中に衝撃と悲しみを与えた。

 同時に、その遠因が冷戦時の米ソ対立にあることも世界の民主主義勢力は知っていた。テロを実行したとされた「アルカイダ」は、1970年代末アフガニスタンに侵攻したソ連に対抗するために米国政府が資金・武器提供をして育てたものが、制御不能に陥った民間軍事組織だ。

 平和と民主主義勢力は、ブッシュの「対テロ報復戦争」が報復の連鎖を引き起こすことを見抜き、反対運動に立ち上がった。

 AUMF決議には上院すべての議員が賛成した。現大統領のジョー・バイデンも当時の上院議員だ。反対したのはただ一人、バーバラ・リー下院議員だけだった。同議員の地元、カリフォルニア州バークリー市では開戦反対の運動が起き市議会決議を上げた。「9・11テロ」生還者や犠牲者家族も「私たちの名で戦争をするな」と深い悲しみの中で声を上げ、「ANSWER」(Act Now to Stop War & End Racism 戦争と人種主義を止めるため今行動を)などさまさまな反戦団体が運動を展開した。

 この潮流は、後のイラク戦争開戦前、史上初めて、戦争を始まる前に止める¢蜍K模な全世界的反戦運動につながった。

 開戦後も、日本発の「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」が各地で公聴会を開き、ブッシュを国際人道法に反する戦争犯罪者として裁き、アフガニスタン戦争を違法な侵略戦争と断罪した。クラスター爆弾による被害はクローズアップされ、後の「クラスター爆弾禁止条約」発効を実現。ICC(国際刑事裁判所)が常設されることとなる。

 「9・11テロ」とアフガニスタン戦争での膨大な犠牲。この不正義は許さないと、平和と民主主義を求め反グローバル資本を掲げる国際的な運動が前進した。

 ガニ政権は崩壊したが、タリバンもまた人権破壊の反民主主義政権だ。「名誉殺人」「石打ちの刑」といった殺害まで正当化する。自らの手で民主的な政治体制を求めるアフガニスタン民衆―民主主義勢力との国際連帯を強めなければならない。それは、アフガニスタン戦争を止めるまでには至らなかった世界の平和と民主主義運動の責務だ。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS