2021年09月03日 1688号

【読書室/「自由」の危機―息苦しさの正体―/藤原辰史・内田樹ほか著 集英社新書 1166円/本を焼く者は人間も焼く】

 日本学術会議会員候補の学者6人の任命拒否問題や愛知トリエンナーレでの「表現の不自由その後展」中止問題など、「学問の自由」や「表現の自由」が攻撃される問題が多発している。本書では研究者やジャーナリストら26人が「自由」の危機についてそれぞれの立場から論じている。

 国家権力が学問や思想、文化、言論を統制し、人びとから自由を奪うことがどれほど危険かは、歴史が明らかにしている。学術会議問題では、任命拒否がいつの間にか学術会議のあり方問題にすり替えられ、自民党の改革案が出された。ナチスの歴史に詳しい藤原辰史は「何か信じられないことが起きる前触れ」「本を焼く者は人間も焼く」と述べる。「為政者の意にそぐわないとみなされれば、捕縛され、収容所に送られ、抹殺される。人びとの命を危険に陥れることを意味する」と警鐘を鳴らす。

 コロナ禍の中、緊急事態条項の導入まで声高に叫ばれ始めた。ジャーナリストの堤未果は、感染防止の名で法改正し強制する各国政府の姿に「歴史を振り返った時、今のように各国政府が横並びになり、自国憲法を逸脱してまでも国民の自由を制限する異常事態があっただろうか」と指摘。9・11テロ後の米国の「愛国者法」の例を引いて「攻撃は点ではなく線としてとらえるべき」と主張する。

 「学問・表現の自由」を嫌悪する反知性主義の広がりや、「秩序」を「自由」に優先させてきた学校教育のあり方も論じられる。

 執筆者らは、権力の理不尽な介入に異議申し立てし、「自由」の価値を積極的に発信しようとしている。私たち一人ひとりにとっても重要な闘いだ。  (N)
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