2021年09月17日 1690号

【菅退陣に追い込んだ市民の怒り/一票で冷酷政治は変えられる】

 政権崩壊―自民党臨時役員会(9/3)で、菅義偉首相は自民党総裁選挙(9月17日告示、29日投開票)に立候補しないと表明した。

 事前のシナリオとは真逆の展開だった。菅はこの日、党人事一任を取り付け、党役員と閣僚人事を刷新し、総裁選から総選挙勝利への態勢をつくるつもりだった。前日まで「やる気満々」で、人事に専念していた。

 ところが、沈没寸前の泥船に乗るものは誰もいなかった。象徴的なのは、同じ神奈川県を選挙区とする小泉進次郎環境大臣。幹事長有力候補として連日面談を重ねていた(田原総一郎9/3日刊スポーツ)。だが菅と心中する気はない。小泉は逆に「退陣」を具申した。

 菅の下では総選挙は戦えない。自民党内の4割以上を占める若手衆院議員(当選3回以下)の危機感は相当なもの。「ほとんどが安倍チルドレン。彼らが一番恐れている」(伊藤敦夫8/26文化放送)。総裁選を目前に党役員を替え、総選挙直前に内閣改造をするなど、どう考えても理屈に合わない。菅の「個利個略」だと一斉に反発をうけた。

 菅は総裁選出馬に必要な20人の推薦人さえ集められず、出たくとも出られない状況にあった(安積明子9/2ヤフーニュース)。現職の首相が出馬さえ許されず、政権は崩壊した。

選挙の敗因は菅

 内紛状態にある自民党。震源は菅の不人気にある。コロナ危機の深刻化とともに支持率は下降を続けた。学術会議任命拒否事件などの強権支配。説明する気のない原稿棒読み。当初売りにした「パンケーキ好きおじさん」とのギャップを際立たせた。信用できない男、菅。連戦連敗の選挙結果が雄弁に物語っている。

 菅政権の下で行われた選挙を振り返ってみよう。初戦は4月。参院の広島再選挙と長野補選、衆院北海道2区補選(自民公認候補なし)で自民党は全敗した。この結果は、民意が勝敗を決めることを印象付け、その後の市民と野党の共闘の動きを促進した。

 保守王国・広島。河井案里の買収事件有罪、当選無効にともなう再選挙だが、投票率は33・61%と過去2番目の低さ。自・公の固定票を固めれば与党に「負け」はないはずだった。だが「政治とカネ」とともに関心が集中したのが「コロナ対策」。「GoTo事業」で感染を全国に広げた菅政権の無責任さに市民の怒りが広がり、支持率は30%台に落ちていた。野党候補の一本化に困難はあったが、僅差で競り勝った。

怒りの組織化が鍵

 菅がいかに嫌われていったのかを示したのが、7月の東京都議選と8月の横浜市長選だった。都議選では一度も応援演説の要請はなかった。横浜市長選ではIR(統合型リゾート)反対を掲げ閣僚の椅子を降りて立候補した小此木八郎を菅は全力で支援。秘書を選挙運動に投入、自身も電話かけをした。結果は惨敗だった。菅に対する市民の怒りが圧倒したのは明らかだ。

 鍵は怒りの組織化にあった。共闘にもたつく野党、妨害の動きすらある中で市民運動が前に出た。住民投票条例制定や市長リコールの署名運動が政治への関心を高めた。選挙戦では市民がリードし、山中竹春統一候補支持を広げた。投票率は単独市長選挙では過去最高49・05%を記録。横浜市長選は、菅対市民の対決の構図だったと言える。

 安倍晋三が長期政権を維持したのは、国政選挙で負けなかったからだ。そこには「何があっても自民党」という固定票が20%以上あった。小選挙区制では、低投票率であるほど自・公の支持票が威力をもつ。2017年の衆院選では戦後2番目の低投票率53・68%。自民は得票率48・2%、有権者4人に1人の支持で75・4%の議席を奪っている。

市民参加で政権交代

 安倍は政権交代を求める声に「悪夢のような前政権」に戻すのかと市民を脅してきた。だが「悪夢」と言われる政権は福島原発事故後、少なくとも全原発の運転を停止させた。現政権はどうか。五輪を強行、新型コロナ感染を急拡大、爆発させてしまった。この1点だけでも、現政権に任せてはおけない理由となる。医療が受けられない。命や暮らしを守れない。そんな政権を居座らせてはならない。

 来る総選挙では、すべての選挙区で市民の政治参加が必要だ。投票率を上げるため市民の要求に野党は応えよ。政策を練り上げ、市民と野党の共闘で自・公・維新の新自由主義政策を終わらせよう。1票を投じれば政治が変えられる。そう実感できる結果が積み重なっている。安倍、菅をはじめ腐敗政権を支えたすべての議員を落選させよう。

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