2021年09月17日 1690号

【読書室/この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体/青木理・安田浩一著/講談社+α新書/税込990円/排他と不寛容≠フ源流を探る】

 本書は、韓国や沖縄の人びとへのヘイトや、少数者が権利を主張するたびに起きるバッシングなど、現在の社会にまん延する憎悪と嘲笑≠取り上げる。差別と排外主義を告発、批判し続けてきたジャーナリストの青木理とノンフィクションライターの安田浩一が対談で掘り下げるものだ。

 青木は「この国の政治や社会に通底する気配」を示す言葉として排他と不寛容≠挙げる。安田は、居酒屋で中年サラリーマンがふと吐き出した言葉「朝鮮人がさあ…」に反応する。それは在特会の主張と変わらず、言い方が柔らかくなっているにすぎない「むしろヘイトのハードルが下がり続けている」と指摘する。

 在特会ができたのは2006年、第1次安倍政権発足もその年末だ。2000年過ぎころからヘイトは剥き出しの様相を示し始める。青木は、それまで多様性をそれなりに保っていた自民党が小選挙区制やチルドレン政治家の出現などで多様性を失って変質。ここに周辺国の変化が加わり、さらに変質を深めた、と捉える。

 この指摘に安田は「安倍の登場というのは、一国的な視点からだけではなく東アジアの現代史のなかでとらえ直す必要」を加える。語られるものから社会の実相が浮かび上がる。安倍晋三一族と在日コリアンとの濃密な関係など政治の舞台裏も紹介するなど奥行きのある対談となっている。

 社会の排他と不寛容の実態を追ってきた両者は現状が深刻度を増していると危機感を共有する。同時に「絶望しているわけではない。時代の深層を解析し浮かび上がらせるのは『勝つため』でもある」(安田)と強調する。それが本書のテーマである。 (I)
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