2021年09月24日 1691号

【MDS18の政策/公衆衛生機関の民主的拡充を/第5回医療制度改革/医療を商品にせず公共にとり戻す(2)】

 感染症対策は政府に課せられた最低限の義務だ。だが、国の新型コロナ感染症対策は緊急事態宣言の乱発、市民生活の制限、医療従事者への献身強要≠ノ終始している。なぜ、このような一時しのぎの対策もどき≠オかできないのか。その原因のひとつは公衆衛生行政の欠如にある。

保健所など削減進行

 ハード面では、検査・患者の隔離保護など市民生活に直結する業務を担う保健所の長年にわたる縮小・廃止と検査・研究に携わる地方衛生研究所の機能低下だ。

 保健所はフル稼働し、職員は過労死レベルの労働を強いられたが、必要な検査・調査ができず、科学的に有効な対策が取れなかった。全国の保健所数は852か所(1992年)から469か所(2020年)と半数近くに減少。医師は1288人(92年)から728人(16年)に、検査技師は1553人(92年)から746人(16年)に削減され、加えて機能も弱体化させられた。

 地方衛生研究所も予算削減、人員削減。全国衛生研究所全国協議会の調査では03年から08年の5年間でも職員数13%減、予算30%減だ。自治体の「行政改革」で、市民の目にあまり触れない部署として大幅に削減されていた。現在はもっと加速しているだろう。

 中でも維新大阪府・市政は群を抜いている。「二重行政解消」と大阪府と大阪市の衛生研究所を統合し、全国初の地方独立行政法人化に踏み込んだ。独法化は職員数削減の数字を上積みするためだ。独立採算の独法、つまりは民営化すれば職員定数も予算も自由に決められる。人件費抑制のための人員削減、職員の非常勤化、業務の外注化が進み、技術の継承や調査研究に悪影響が出るのは明らかだ。

 安倍政権は検査も診療所・病院経由で民間検査機関に移行させた。検査費用は保険適用。健康保険加入者の保険料で7〜9割を賄い、患者自己負担分の1〜3割のみ公費負担とした。どさくさ紛れに検査費用を国庫から保険者に押し付け、対策費を削ったのだ。しかも偽陰性が多く出る抗原定性検査が推奨された。

 公衆衛生行政の切り捨てが新型コロナ感染症抑え込み失敗の要因であり、もともと脆弱な医療態勢を崩壊させる危機につながった。

 公衆衛生は健康で文化的な生活のための最低限の基盤整備であり、政府・自治体が拡充の責務を負う。

 「18の政策」は「公衆衛生行政・研究組織を政権と巨大企業から独立させ、公立での民主的拡充を図る」「人権侵害を許し効果的な対策を実行できない『感染症法』『新型インフルエンザ等対策特措法』を廃止し、感染症に対して公衆衛生機関が基本的人権を尊重しつつ命を守る科学的な政策を実行できる新法を制定する」としている。(続く)
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