2021年09月24日 1691号

【「コロナ対策」で殺される人びと/労働、社会保障、税 制度をすべて見直せ】

 「メンタリスト」と称するタレントが、路上生活者(ホームレス)や生活保護受給者を人間として扱わないヘイト発言をした(8月7日)。「生活保護の人、生きていても僕得しないけどさ、猫はさ、生きていたら僕、得なんで」。生活保護に税金出すくらいなら猫を救えとするこの内容は、5年前に起こった相模原障がい者施設殺傷事件(死傷者45人)で加害者が語った「不要に思える人を抹消したい」となんら変わるものではない。この事件の教訓がまったく活かされていないことを見せつけられ、がく然とする。

 このタレントの思想は、優性思想と福祉否定論、これらが生み出すスティグマ(汚辱のらく印)の三重の問題を持つ。極端な自己責任論の行きつく先である。とりわけ、スティグマは当該の人びとに強烈な圧力をかける。無職で所持金がほぼゼロ、公助によってしか救えない人に「生活保護だけは嫌」といわせることになるのだ。

 特に、不十分な内容で新たな禍(わざわい)≠ニなっている菅政権の「コロナ対策」の下にあっては、社会的弱者を直撃、自殺者の増加となって顕在化している。このコロナ対策禍=B医療サービスを受けられない自宅療養者を見殺しにするだけでなく、健康な人びとをも殺しているのだ。

「コロナ対策」の無力

 政府の「コロナ対策」は、医療だけでなく社会保障制度やその他のセーフティネットの脆(もろ)さをさらけ出し、救える命が救えない状態を生み出した。それを示すものの一つに失業率の高まりと自殺者の増加がある。

 雇用破壊への無策によって失業の長期化が進んでいる。2021年4月から6月期の失業者は233万人、1年以上失業状態にある人が74万人に達した。宿泊・飲食・サービス業での影響が大きく、特に女性や非正規の従業員の割合が多い。

 一方、自殺者数は21年1月から6月までで1万784人。前年同時期比で1206人増、1・13倍(厚労省7月発表)となっている。失業率の高まりが自殺者を増やしているのだ。

 新型コロナの流行で自殺者がどれだけ増えたのか。ある試算がある(7/20東京大学仲田泰祐ら)。

 失業率上昇と自殺者数増加の相関関係を使って、新型コロナの流行がなかった場合の自殺者数を推計し、実際の自殺者数との差をみた。その結果、20年3月から21年5月までの自殺者数は約3200人増えた。21年6月から24年末までには約2000人増えるとの見通しを示している。

 この増加分は貧弱な「コロナ対策」によって殺された人びとと言ってよい。

使いにくい救済制度

 なかでも、今日明日に食べ物もない人びとをどう救うか、切羽詰まった課題が横たわっている。たしかに、特別貸付制度や生活困窮者自立支援金、住居確保給付金などの救済制度が作られ、これらの制度利用で急場をしのいだ人もいる。だが、使い勝手も悪く、金額や期間など問題は残ったままだ。

 住居確保給付金は、世帯収入が一定金額以下などの条件に合えば家賃が3か月間支給(最長12か月間)されるものだ。特別貸付制度は緊急小口資金と総合支援資金があり、2つを使うと最大200万円を無利子で借りることができる。

 しかし、最長12か月間に限定される住居確保給付金。失業期間1年以上の人が急増している現状をみれば、さらなる期間延長がなければ実態にあわない。



 特別貸付制度は利用額が1兆円を超えるなど効果を示しているが、利用をためらう人も少なくない。特別貸付制度は一皮むけば借金だからだ。ある福祉関係者は「奨学金と一緒。貸す時は支援、返す時は借金」(6/28朝日)と的確に指摘している。返す当てがなければ苦境を先送りするだけになり、借金を貧困対策に据えることは問題解決につながらない。

 特別貸付が利用できない世帯に対して、1世帯最大30万円となる生活困窮者自立支援金の支給が7月から始まったが、条件が厳しすぎて想定の1割程度の利用にとどまっている。

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 こうした個別の「対策」の継ぎはぎでは効果は無きに等しい。それを防ぎ、「コロナ対策」で殺されないために「労働法制、社会保障制度、税制の全体を見直すべき時」(3/17日弁連会長声明)が来ている。命とくらしを守る総合的施策へ抜本的な変革を求めよう。

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