2021年09月24日 1691号

【自民党総裁選がメディアを占拠/刷新ムードの演出を狙うが…/しょせんは安倍路線の代理人】

 自民党の総裁選なんて本当は記事にしたくない。あれこれ話題にすること自体が連中の思うつぼだからである。テレビを中心としたメディアを「自民党劇場」一色に染め上げ、新生感を醸しだした上で衆院選になだれ込む――いつもの手口とはいえ、これが結構効き目があるのだ。

自民の支持率上昇

 すっかり「過去の人」扱いの菅義偉首相には目もくれず、メディアは自民党総裁選の動向を追いかけている。9月10日放送のNHK『ニュース7』を例にとると、冒頭からの8分40秒を総裁選の話題に費やした。

 この日の主役は立候補を正式表明した河野太郎行政改革相で、生出演したTBS系『news23』をはじめ、ニュース番組で大きく取り上げられた。負けじと高市早苗前総務相もテレビ・ラジオ番組をはしご。「電磁波で敵基地の無力化を図る」とぶちあげるなど、「安倍直系」であることをアピールした。

 そんなテレビに食傷してネットを開いても、「“河野、岸田、高市”三つどもえ?どうなる総裁選」「河野・進次郎連合VS安倍・高市グループ」といったヘッドラインが嫌でも目に飛び込んで来る。まさに、メディア・ジャックと言うほかない状況だ。

 自民党の狙いは、総裁選を衆院選の事前運動として活用し、刷新ムードを演出することにある。虫が良すぎる話だが、メディアへの大量露出には人びとを錯覚させる効果がある。

 直近(9/4〜9/5実施)の世論調査をみてみよう。菅内閣の支持率は過去最低をまた更新した(共同通信調査が30・1%。読売新聞調査は31%)。菅は「俺って、そんなに人気がないのか」とうめいたそうだが(9/10朝日)、実際、同情票も集まらなかったようだ。

 ところが、自民党の支持率は共同調査で46%と、前回調査時(8/14〜8/16)から6・5ポイント上昇した。総選挙の比例代表で自民党に投票するという回答は5ポイント増の43・4%。立憲民主党の17・3%を大きく引き離している。

 このように、自民党の注目度が上がり、野党は埋没した。現時点では否定できない事実である。

全員が安倍すり寄り

 総裁選の話題に明け暮れる風潮をコラムニストの小田嶋隆は次のように批判する。「家庭の話に例えるなら、今は冷蔵庫が壊れてしまった状況なんですよ。どこが悪かったのかという話は家族の誰も興味がなくて、今度どんな冷蔵庫を買おうだとか、こんな機能がほしいだとか、そんな話ばかりに夢中になっている」(9/11デジタル毎日)

 たしかに今必要なのは、今日のコロナ危機を招いた政治の検証である。なぜ医療崩壊が起き、放置死が多発しているのか。医療の切り捨てを進め、セーフティネットをズタズタに切り裂いてきたからだ。つまり歴代自民党政権、特にこの9年間の安倍・菅政権が押し進めてきた新自由主義政策に根本的な原因がある。

 それなのに、「ポスト菅」に名乗りを上げた3人は「安倍路線」の後継者ばかり。岸田文雄前政調会長は「小泉構造改革以降の新自由主義政策を転換する」と述べているが、自身が立ち上げた「新たな資本主義を創る議員連盟」の最高顧問に迎え入れたのは、安倍晋三前首相だった。当然、安倍に逆らえるはずもなく、森友学園事件について「再調査等は考えていない」と、前言を翻した。

 河野太郎にしても、安倍にすり寄り「脱原発」などの持論を封印する始末。高市早苗は安倍の支援を受けていることが最大の売りだ(ちなみにネトウヨは高市を「令和の卑弥呼」と讃えている。アホくさ)。

 要するに、誰が首相になっても、菅と同じで、その役割りは安倍路線の代理執行人にすぎない。店長が交代しても、新自由主義政策と戦争国家づくりという基本路線に変わりはないということである。

政権交代で終止符を

 「医療体制を確保することができなかったのは大きな反省点」。9月9日の記者会見で菅はこう語った。口からでまかせ、厚顔無恥にも程がある。

 安倍政権が2014年に打ち出した公立・公的病院の統廃合計画「地域医療構想」を菅政権は引き継ぎ、コロナ禍で脆弱な医療体制が露呈しても撤回しようとしなかった。2022年度の概算要求でも、その実現のために多額の予算が計上されている。

 医療分野の新自由主義政策の典型というべき「地域医療構想」について、岸田も河野も見直しを唱えてはいない。高市に至っては、軍事費を倍増すべきと息巻いている。こんな連中に国の舵取りを委ねてはならない。人命軽視政治を終わらせるには、政権交代が必要なのだ。     (M)

 
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