2021年09月24日 1691号

【読書室/コロナがあばく社会保障と生活の実態/伊藤周平編著/自治体研究社/1300円(税込1430円)/必要なのは生存権保障の観点】

 新型コロナウイルス感染拡大がもたらした事態は、医療・介護・雇用など社会生活に不可欠な制度の欠陥を見せつけている。医療崩壊が進んで病床ひっ迫があるにもかかわらず、政府は病床削減政策をやめない。介護報酬を連続して下げ、雇用の劣化が止まらない。女性と非正規を中心に生活困窮者が増えている。

 また、社会保障制度の充実は待ったなしだが、さらに縮小されようとしている。これをマスコミはあまり取り上げない。問題がどこにあるのか、解決策は何なのかは報じない。新自由主義政策が諸悪の根源にあることが見えるからだ。

 本書は、社会保障の脆弱(ぜいじゃく)さを指摘しつつ、施策として実際に行われている先進例を紹介する。

 第T部は、医療・介護・雇用分野で政策課題を示す。

 社会保険には低賃金の人にも保険料支払いが求められ、消費税と同じように逆進性が強い。これを「保険主義」という。社会保障・雇用保障の再構築のため、「保険主義」からの脱却と保険料の軽減を重視することを強調する。その財源は、消費税ではなく、所得税と法人税の累進課税強化、不公平税制の是正と主張する。

 第U部では、生活困窮と貧困の現状を明らかにし、公的支援の必要を訴える。

 現場の支援活動から「弱者を見捨てる」社会の実相を明らかにする。その一つ、生活保護申請の壁を打ち破る報告がされる。公的支援の先進例として、明石市の支援策―児童手当に1万円上乗せ、大学生に学費上限100万円の緊急支援など―17項目も紹介される。

 新型コロナに対抗するには生存権保障の政策強化が必要だ。本書からこのことが理解できる。  (I) 
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