2021年10月01日 1692号

【レイプ事件もみ消し男が警察トップに/菅首相、最悪の置き土産/安倍・菅の権力私物化極まれり】

 菅義偉首相が最悪の置き土産を残していった。新たな警察庁長官に中村格(いたる)次長を昇格させたのだ(9/22付)。中村といえば、政府御用記者の準強姦罪逮捕をつぶしたことで知られている。性犯罪もみ消し男を警察組織のトップに起用とは、安倍・菅政権を象徴する腐敗人事というほかない。

「官邸の番犬」だった

 中村は東大法学部卒業後、警察庁に入庁。菅義偉首相の官房長官在任時も含め2009年〜15年に官房長官秘書官を務めた。菅には警察とのパイプを活かした情報収集力を買われ、「官邸の番犬」と言われるほど重用されてきた。

 秘書官時代のエピソードといえば、『報道ステーション』恫喝事件がある。2015年1月、コメンテーターの古賀茂明が安倍政権を批判する発言をすると、中村はテレビ朝日報道局に対し即座に抗議電話を入れ、続いて「古賀は万死に値する」といった内容のメールを送り付けたのだ(この一件がきっかけで、古賀は番組を降ろされた)。

 このように中村は菅の手足となって動いてきた。2015年3月に警視庁刑事部長として警察に復帰してからも、菅とは毎日のように連絡をとっていたという。問題の性犯罪もみ消しは、中村が警視庁刑事部長なってすぐの時期に起きた。

 2015年4月4日未明、当時TBSのワシントン支局長だった山口敬之(のりゆき)記者によるレイプ事件が発生した。被害者の伊藤詩織さん(ジャーナリスト)が起こした民事裁判で、東京地裁は2019年12月、山口に損害賠償の支払いを命じた(現在、東京高裁で控訴審が続いている)。

 地裁判決は「酩酊状態にあって意識のない原告に対し、合意のないまま本件行為に及んだ事実、意識を回復して性行為を拒絶したあとも体を押さえつけて性行為を継続しようとした事実を認めることができる」として、山口の不法行為を認定している。

 性暴力の事実がこれほどまでに明らかなのに、なぜ逮捕も起訴もされなかったのか。その背景には、安倍官邸の意向を受けた中村の暗躍があった。

御用記者を守る

 実は、伊藤さんの刑事告発を受けて所轄署は捜査に動いており、準強姦罪の容疑で逮捕状を取っていた。ところが逮捕寸前になって、上層部が突然の捜査中止命令を下した。週刊新潮の取材に対し、中村は「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と認めている。

 山口はTBS政治部記者時代から安倍晋三と親しく、一時は「安倍首相に最も近いジャーナリスト」と言われてきた。コメンテーターとしてテレビに出まくっていたので、覚えておられる方も多いだろう。

 菅との縁も深い。山口はTBSを退社後、ある広告会社から多額の顧問料を受け取っていたのだが、その世話をしたのが菅である。同社の会長は菅のタニマチとして知られる滝久雄なのだ(飲食店検索サイト「ぐるなび」の創業者)。

 官邸にとって山口は、政府御用ジャーナリスト、すなわち謀略情報の発信装置として、利用価値のある人物だった。だから警察組織を動かして事件化を防ごうとした。一方、中村にとっては、出世のための得点機会であった。

 政権の意を汲んで性犯罪を握りつぶした人物が、論功行賞的に警察組織のトップに起用される―。法治国家にあるまじき異常人事というほかない。こんなことが安倍・菅政権では常態化していたのである。

スキャンダル封じ狙う

 安倍・菅政権は、多くの警察官僚出身者を政府の主要ポストに据えてきた。第二次安倍政権の発足以来、官僚トップの内閣官房副長官であり続けたのは、公安警察出身の杉田和博である。2017年8月からは内閣人事局長となり、官僚人事を支配してきた。

 内閣情報官、国家安全保障局長を歴任した北村滋も公安警察上がりで、特定秘密保護法や共謀罪創設法の成立を主導したことで知られる。ちなみに前述の中村が週刊誌の取材に脅え、助けを求めた官邸幹部が北村と見られている。

 このほかにも宮内庁長官や原子力規制庁の長官にも警察庁出身者を据えるなど、安倍・菅政権は警察組織との癒着を強めてきた。警察が時の政権の下請け機関と化し、弾圧や謀略工作に従事する―。これはもう、戦争国家そのものだ。

 今回の人事で新たな警視総監に就任した大石吉彦も、安倍の首相秘書官を6年務めた経歴を持つ。警察の2トップを子飼いの官僚で固める人事の意図が、安倍や菅が関与した数々のスキャンダル封じにあることは言うまでもない。

 こうした権力の私物化を根絶しなければならない。まずは自民党支配を終わらせることが必要だ。(M)

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