2021年10月15日 1694号

【自称リベラルが聞いてあきれる/岸田新首相という操り人形/「安倍路線」との決別を衆院選で】

 早くも「安倍晋三の操り人形」と批判されている岸田文雄新首相。実際、自民党役員や閣僚の人事をみていると、「特技の『人の話を聞く力』とは言いなりのことか」といった感想しか出てこない。「安倍路線」を終わらせるには、自民党政権自体を終わらせるしかないということだ。

「勝者安倍」と米紙

 「日本の指導者コンテストの勝者は安倍晋三だ」。自民党総裁選の告示に先だって、米紙ワシントン・ポストがこのような分析記事を掲載していた(9月16日付電子版)。誰が勝っても「安倍路線」に変わりはないというのである。

 たしかに、総裁選という自民党劇場の主役は安倍だった。当初は泡沫候補視されていた高市早苗の全面支持を表明し、票集めに自ら奔走。敗れはしたものの、国会議員票は114票を獲得し(1位岸田が146票、河野太郎は86票)、影響力を見せつけた。

 一方、岸田陣営にも盟友の甘利明(元経産相)や側近の元官邸官僚(今井尚哉元首相補佐官、北村滋前国家安全保障局長)、御用記者(岩田明子NHK解説委員)らを送り込み、選挙対策を仕切らせた。

 つまり「高市健闘」「岸田勝利」は安倍のシナリオどおりの結果であった。大満足の安倍は高市陣営の会合(9/29)でこう述べている。「高市さんは確固たる国家観を示した。私たちの主張は他の候補にも影響を与えることができた。離れかかっていた多くの自民党支持者が戻ってきてくれたんじゃないか」

高市に追随した岸田

 どういう意味なのか解説しよう。安倍が讃えた高市の「確固たる国家観」とは、改憲・軍事大国化推進のことだ。菅政権は新型コロナウイルス対策とオリンピックに翻弄され、これが不十分だったと言うのである。

 改憲について高市は、2012年策定の自民党改憲草案(現行9条2項の「戦力不保持」と「交戦権否認」を削除)を「今の自民党案よりベターだ」と述べ、「自衛隊ではなく『国防軍』と明記したい」と主張した。また12条にも言及し、「公益及び公共の秩序」を維持するために私権の制限ができる形をはっきりさせたいと提起した。

 安倍の持論である「敵基地攻撃能力の保有」にも踏み込んだ。強力な電磁波を敵基地の高高度上空で発生させ、基地機能を無力化する攻撃を可能にするという。これは核爆弾を使わなければできない芸当で、高市の主張は独自核武装と先制攻撃を意味している。

 高市が代弁する「安倍路線」に岸田は明らかに追随していった。改憲論議では「自衛隊の明記は違憲論争に終止符を打つために重要だ」とし、敵基地攻撃能力についても「有力な選択肢だ」と述べた。自称リベラルが聞いてあきれる。

 そして岸田は党役員人事で、高市を政策責任者にあたる政調会長に起用した。「安倍路線」が自民党の方針であることを明確に示したのである。

 ちなみに、安倍の言う「離れかかっていた自民党支持層」とは、日本最大の極右団体である日本会議に連なる面々やネット右翼らのことを指す。高市応援団として「河野バッシング」をくり広げ、支持の削り取りに一役買った連中だ。

 連中は自民支持層の中でも少数にすぎない。しかし、彼らの組織力や情報発信力(デマ宣伝)に頼らなければ自民党は選挙に勝てないし、改憲運動を盛り上げることもできないと安倍は見ているのである。

露骨な安倍人事

 人事についても触れておこう。甘利の幹事長起用は別記事で批判しているので、ここでは松野博一官房長官についてみていく。

 メディアは松野の起用を「最大派閥の幹部起用で政権運営をより安定的に行うため」と解説しているが、それだけではない。松野は安倍が会長を務める右派議員連盟「創生日本」のメンバーだ。米紙に掲載された日本軍「慰安婦」制度の強制性を否定する意見広告に、安倍や高市らとともに名を連ねた人物なのだ。

 文部科学相時代には、加計学園問題における「総理のご意向」文書の存在を一時は否定した。安倍を守るために文書隠蔽を企てた当事者を政権の要の職に据える。これが森友・加計問題の再調査はしないという新政権の意思表示でなくて何であろう。

 このように、岸田政権の誕生は「安倍支配の延命・強化」を意味している。しかしそれは「安倍路線」以外の選択肢を自民党が示せないことの証明でもある。

 コロナ禍に苦しむ人びとを尻目に、権力維持のための内部抗争に明け暮れた自民党。こんな連中に政権を担わせるわけにはいかない。「安倍路線」を終わらせるには、衆院選で打倒するしかないのである。 (M)

   
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