2021年10月15日 1694号

【読書室/デジタル・ファシズム―日本の資産と主権が消える/堤未果著 NHK出版新書 880円(税込968円)/市民丸ごと支配への警鐘】

 菅前政権はコロナ禍を好機≠ニばかりにデジタル化を進め、9月1日には首相直属のデジタル庁が発足した。本書は、日本で進むデジタル改革がどのような社会をもたらすかを「デジタル先進国」である米中の実態を通じて示し、警鐘を鳴らしている。

 GAFAに代表される巨大IT企業(プラットフォーマー)が収集する個人情報は、グローバル企業にとって莫大な利益を生み出す金脈となっていると同時に、個人の消費行動ばかりか思考をも支配し、民主主義を破壊する。筆者はこうした社会をデジタル・ファシズム≠ニ表現する。

 キャッシュレス化が社会の隅々に行き渡った中国では、カード決済をすればするほど個人情報が吸い取られ、個人生活は丸裸状態だ。しかも、個人情報をすべて政府に提出しなければならず、政府に不都合な人物は「信用スコア」の操作でカード使用が制限され実質的に社会から排除される。個人情報に基づく「信用スコア」の仕組みはアメリカ発のビジネスモデルだ。

 コロナ禍のアメリカでは、公立学校が休校する中、オンライン授業を売りとするバーチャル学校が急速に広がり、教育産業に群がった投資家に莫大な利益をもたらした。しかし、正解をすぐに教えるスマホ相手の画一的授業は、考える力や、集団学習で得られる人間的成長の機会も奪ってしまう。日本でも、教育のデジタル化に楽天、ソフトバンクなどIT企業が参入し膨大な利権を得ようとしている。

 日本で急速に進むデジタル化。グローバル資本、IT大企業の参入による個人情報の商品化とともに、国家による市民の完全支配が狙われているのだ。(N)   
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