2021年10月22日 1695号

【選挙争点は市民が決める/消えた格差解消 分配戦略は言葉だけ/攻め所満載の岸田所信表明】

 臨時国会は代表質問だけで閉会。審議を避けた岸田文雄政権は総選挙(10月31日投開票)へと逃げ込んだ。安倍・菅政権の悪夢≠断ち切る政権交代が問われている。争点は市民連合と野党の共通政策だ。「政治とカネ」の清算も格差解消も口にできない岸田には何も変えられない。市民のリードで野党統一候補を勝利させよう。

20項目の共通政策を争点に

 「国難克服」―選挙のたびに与党が都合よく争点を設定し、マスコミもそれを垂れ流してきた。だが、もうその手は通用しない。選挙の争点は市民が提起する。この総選挙は安倍・菅政権の悪行を清算するためのもの。市民連合と野党の共通政策がそれを可能とする。この視点から、岸田の所信表明(10/8)との違いを明らかにしよう。

 市民連合と野党の共通政策の第1は沖縄辺野古新基地建設中止や核兵器禁止条約の批准。一連の戦争法制の違憲部分の廃止など安倍・菅政権が重ねた壊憲″s為の復元だ。

 岸田は「外交・安保」政策の中で、「丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築きながら…辺野古沖への移設工事を進めます」と言った。安倍・菅がさんざん沖縄の民意を踏みにじった反省もなく、「対話による信頼」を口にするとは、厚顔無恥にも程がある。

 この一点だけでも、安倍・菅政権を無批判に継承する岸田政権の性格がわかる。その上で、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の見直しに言及した。軍事費拡大への布石なのだ。辺野古中止、軍事費削減は極めて重要な争点である。沖縄戦遺骨土砂埋め立て使用反対の市民の取り組みはマスコミに辺野古を無視させない役割を果たす。市民の運動が争点をつくることになる。

 共通政策の第2は「コロナ対策」。医療費削減政策の転換、医療従事者らの処遇改善、コロナ禍を救う財政支援を行う。これに対し岸田はまず「ワクチン接種を進めた」と菅を誉めた。「何が危機管理のボトルネックだったのかを検証」「最悪の事態を想定」と続けて言うが、批判的検証などする気もないし、最悪の事態を示すこともない。総裁選で掲げた「岸田ビジョン」(国公立病院のコロナ専門病院化など)のような具体策は一つも示さなかった。「予約不要の無料検査の拡大」は感染症対策としての基本の基。これまで市民が何度となく厚生労働省や自治体に要請してきても、動かなかった。今すぐ指示できることも、もったいぶってやろうとはしないのだ。

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安倍と変わらぬ経済政策

 共通政策の3は格差・貧困解消、4は地球環境を守る経済政策。最低賃金の引き上げや消費税減税、富裕層の負担強化など不公平税制の改善、低所得・中間層への再配分強化を掲げる。経済は、原発のない脱炭素社会の追求や食料安全保障の確保をめざす。

 これに対する岸田の経済政策は、「新しい資本主義の実現」。何を新しくするのか。新自由主義政策について「富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘されています」と他人事のように語り、「世界では、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく、新しい資本主義経済の模索」が始まっているから、「日本でも」とつないでいる。貧困も低所得者層も対象ではなく、地球規模の危機にも新たな投資先を探しているのだ。

 岸田の経済政策は最終的に安倍の側近だった経産省出身の今井尚哉がつくったという(10/5ビジネスインサイダー)。総裁選告示前日(9/16)に経団連を訪問した岸田は十倉雅和会長から「経団連の新成長戦略と同じだ」と全面的支援を取り付けている。結局は安倍路線の継承ということだ。

 実際「成長と配分の好循環」も岸田のオリジナルではない。安倍もまた何度となく口にしてきた。金融緩和、財政出動を岸田は継続する。アベノミクスの2本の矢だ。3本目の成長戦略で安倍は経済特区制度をつくった。この成長戦略の果実の「分配」を受けたのはアベ友、加計学園≠セった。大臣、副大臣クラスに「カネまみれ」の面々が並ぶ政権が考える「成長と分配」はあやしい限りだ。

 「成長」至上主義と「持続可能な経済」は相矛盾する。地球環境を破壊してきたのは他ならない「成長」最優先の資本主義の経済システムだからだ。資本主義が当然視する環境収奪を改めなければならない。「新しい資本主義」ではできない相談だ。新たな経済システム=民主主義的社会主義への転換なくして、問題の根本的解決はない。

「政治とカネ」腐敗政権を断つ

 共通政策5のジェンダー平等は自民党は政策化さえできない。与野党で政策合意した選択的夫婦別姓制度を党内の右派がつぶしてきたからだ。共通政策6のモリ・カケ、桜事件の再調査は、岸田にとって触れることも許されない問題だ。日本学術会議の任命拒否は撤回しないと早々に決めた。

 これらを選挙の重要争点とすれば、自民党や公明党が票を集めることはない。市民がリードする選挙戦は市民が争点を押し上げることだ。マスコミの好きにさせてはならない。どんな政策を実行させるのか。実現できるのは誰か。これらの共通政策への賛否が判断の材料となる。

  *  *  *

 安倍・菅政権の9年間で政治への不信は大きくなっている。朝日新聞の世論調査では「安倍・菅政権を引き継がない方がよい」は55%、「引き継ぐ方がよい」23%の倍以上となっている。「コロナ対策」「政治とカネ」など腐敗無能政権と決別できない岸田が信任を得られるはずはない。政権支持率は何もせずぼろが出る前でも5割に満たない。

 菅は「雪深い秋田の…」と叩き上げを売りにしたものの、幻滅された。岸田は最初から出身地を宣伝に使えない事情を抱えている。

 一つには、核兵器禁止条約に賛成できないためだ。「核廃絶がライフワーク」というほど広島出身を売りにしてきた岸田だが、核兵器禁止条約批准が当たり前の地元には顔向けできない。核技術維持のための原発さえ推進の立場をとる。

 さらに、自らが会長を務めていた自民党広島県連を崩壊の危機に陥れている河井事件。安倍が手配したと言われる1億5千万円の出所について、岸田には追及することはできない。足元を揺るがす事態にも立ち往生するしかない。

 首相の座を守ろうとすればするほど、身動きが取れない。早く引導を渡してやることも、岸田のためだ。

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