2021年10月22日 1695号

【岸田の"分配"vs市民と野党の政策 格差、貧困是正へ 賃上げと社会保障 大企業・富裕層課税強化を】

 岸田文雄首相は、「成長戦略、分配戦略」の両輪で「分厚い中間層を再構築」とする「新しい資本主義」を唱えている。賃上げする企業への税制支援に言及し、看護師や介護士などの賃金増を目玉政策≠ノ掲げた。看護師ら賃金10%増の場合、約2兆円の財源が継続して必要となるが、岸田首相は財源を明言していない。

 これに対し、市民連合と立憲野党4党の間で6項目の政策合意が成立した。そこには、格差と貧困の是正のため、最低賃金の引き上げ・公的支援の拡充・税制と社会保険料の見直し・消費税減税・富裕層への負担強化・低所得と中間層への再分配強化が明記されている。公平な税制の実現という財源を示し、岸田の案に比べはるかに具体的だ。

 総選挙の争点となる貧困と格差。その要因である賃金の低迷問題と賃上げの必要、そして社会保障について考えてみよう。

賃金はOECD22位

 OECD(経済協力開発機構)調査結果が波紋を呼んでいる。日本の平均賃金が22位(2020年)となったからだ。1997年には3位だったので、その落差は大きい。嫌韓のメディアやネトウヨまで「19位の韓国より賃金が低い」と嘆くが、まず事実を直視し原因を明らかにすべきだ。

 過労死するほど働いても賃金が増えない。一部の正社員の賃金は最低賃金に近づいている。平均賃金は24年間にわたって低迷している。これが基本的要因となり、多くの人が生活に余裕をなくし、その解決を見えなくされている。

 9月発表の国税庁「民間給与実態統計調査結果」によれば、昨年の平均年収は433万円となった。給与控除などを調整した後に手取り換算すると月30万円を切る。2人世帯の消費支出(総理府「家計調査報告」)は平均月28万円程度であり、月1〜2万円ほどしか残らない。何か臨時支出があれば、家計はすぐ赤字となる。その上、10月から食料品と電気・ガスが値上げされ、わずかの黒字は無いに等しくなる。

 いっそう苦しいのが女性だ。女性の平均年収は293万円である。非正規社員に限ると153万円でしかない。女性一人では生活できないことを示している。

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下がり続ける労働分配率

 生産活動などで生み出される付加価値のうち労働者に分配される比率を労働分配率という。会社が稼いだお金を社員にどれだけ分配しているか≠意味する。この労働分配率と、同じく付加価値に占める営業純益を比較すると、賃金低迷が続く理由が明らかになる。

 労働分配率は09年度をピークに下がり続けるのに対し、営業純益は同年度から上がり続けている。つまり、労働者の取り分が少なくなり、企業の取り分が増えているのだ。大企業ほどその傾向は著しい。大企業の内部留保や株主への配当金が増え続けるのはそのためだ。分配≠口にするなら、この利益にこそ根本的なメスを入れるべきだ。

 生活に少しでも余裕を持たせるには、賃上げ以外にない。主要国で賃金が20年以上低迷しているのは日本だけだ。各国は最低賃金1500円水準実現へと前進しており、最賃引き上げは全体の賃上げに影響を与える。さらに、賃上げは年金財政にも反映し、年金額の引き上げにもつながる。

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不公平税制をただす

 誰もが人間らしい生活を送るためには社会保障の拡充が不可欠だ。さまざまな給付制度をはじめセイフティネットを分厚くしなければならない。だが、日本の社会保障は脆弱で、困窮の深刻化に機能していない。

 根本原因は、社会保障に使うお金(政府支出)が少ないからだ。軍事費や無駄な公共事業費を削減し、大企業と富裕層が莫大な恩恵を受けている不公平税制を是正すれば財源は確保できる。岸田首相は総裁選で口にした「金融所得(株主配当等)課税強化」をすぐ引っ込め、早くも分配≠フウソがばれた。ウソつき政権はただちに交代だ。
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