2021年10月22日 1695号

【住宅追い出し許さない/反訴に立ち上がった避難当事者/福島地裁で意見陳述】

 福島駅前で「避難者の住宅を奪わないで」「いじめるな」など、のぼり旗を立てて福島県の人権侵害を訴えるチラシが配られた。福島地裁で開かれた避難者住宅追い出し訴訟第3回弁論期日の10月8日、20分間で100枚が受け取られた。参加者は「チラシは読まれ、関心があると思った」と手ごたえを語る。

 この日、福島県を人権侵害で訴え慰謝料を請求する反訴状が提出された。「この問題を行政手続き議論だけで幕引きさせない」「福島県の非道、被災者住宅政策の無策を問おう」と、反撃に立ち上がった。

 地裁前集会では、福島での取り組みが報告された。ひだんれん(福島原発事故被害者団体連絡会)の武藤類子代表は「県が新たに(国家公務員宿舎家賃未納者の)世帯を調停・裁判にかける議案を提出したので抗議した」。子ども脱被ばく裁判の今野寿美雄原告団長は「チェルノブィリ法で住まいや医療を補償している。11月にウクライナ大使が福島に来るので、この現実を訴える」と報告した。

 福島原発被災者フォーラム山形・福島は、衆院選候補予定者に公開質問状を発した。武田徹代表は「提訴取り下げ、生活可能な宿舎を提供すべきと問うている。いい返事には行動を求めていく」と述べた。「堂々と闘っていこう」(かながわ訴訟・村田弘原告団長)「臆せず闘いぬいてください」(避難者への2倍請求と追い出し強要を許さない会・福島敦子世話人)とのメッセージも送られた。

怒りの陳述に拍手

 法廷には2人の避難当事者が出席。男性が反訴に及んだ苦痛、行政への怒りを8分間にわたって陳述した。

 「震災当時はいわき市内の会社で勤めていた。工場が地震で閉鎖され、避難した都内で見つけた会社も半年で倒産。預金を切り崩しながら生活してきた。別れた子どものこと、生活の先行きを考えると夜も眠れず、2013年に大学病院にかかった。即入院となり、その後はなかなか定職に就く自信がない。17年3月の住宅無償提供打ち切り前に、都が避難者向けに用意した都営住宅を希望したが、県の職員から、『単身だから資格がない』と言われ断念した。ところが、精神保健福祉手帳を取得すれば都営住宅の300枠に入れたことを知り、県への不信感がつのった。後に精神保健福祉手帳が交付されて都営住宅応募の資格を取得したが、15回落選している。

 調停の場で提案された4つの引っ越し案も、経済実態からはかけ離れた物件ばかり。私は県職員に『なぜ、相談した時に精神科医療につなげてもらえなかったのか。そうしたら今頃は都営住宅にいた』と問うた。職員は『担当が変わったので経過がわからない』と弁解。『残念に思います』と他人事のような返事で、それが弱い立場に立たされた者に言う言葉なのか、大変傷ついた。助けてください」

 話し終えると、裁判長はうなずき、拍手も起こった。

県への逆襲を開始

 柳原敏夫弁護士は、予備的主張として権利濫用(らんよう)論を取り上げ、「住宅提供の打ち切りをやったのは都なのか県なのか。誰がやったのかが不明だと、どういう根拠でやったのか、濫用の事実も問えない」と主張した。

 原告の県側は、議論は避けて早期結審に逃げ込む姿勢だ。柳原弁護士は「国際人権法のどこを争点にするのかさっぱりわからない。原告はどこをどういう理由で争うのか、具体的に示す責任がある」と批判した。

 大口昭彦弁護団長は、反訴において避難者が受けた精神的苦痛、不当な扱いに対して1000万円の損害賠償を請求した。反訴状の説明として、法の下の平等を挙げた。柳原弁護士は「都営住宅の募集要件緩和、復興公営住宅の県外設置は決して不公平ではなく、逆に被災者、弱い立場に立たされた者を平等に扱う対応といえる」と補足した。

 報告集会で大口弁護士は「社会にアピールしていく上で、今日の反訴と当事者意見陳述は大変意義がある。どっこい我々は我慢してないぞ、福島県はけしからんぞ!と逆襲する、攻める土俵が実現された」と評価。初めて出席した当事者の女性は「詳しいやり取りは難しかった。仕事でなかなか来られないが、直接会ってみなさんにお礼を言いたかった。これからも前向きに闘っていく」と述べた。

 次回第4回弁論は12月3日午後3時。

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