2021年10月22日 1695号

【みるよむ(600)2021年10月9日配信:イラク平和テレビ局in Japan 破壊されるイラクの芸術 ―腐敗した政府機関と大会社の宣伝―】

 イラクでは今、長い歴史を持つ街並みに、その景観を台無しにする銅像や記念物が多数作られている。2021年8月、サナテレビはこの問題に焦点を当て、実態を明らかにした。

 番組はまず6千年に及ぶイラクの芸術作品を振り返る。数千年前の彫刻もあれば、集会でよく利用されるバグダッド・タハリール広場の「解放モニュメント」なども映し出される。

 ところが、2003年の米軍占領以後、そうした街の景観を破壊するひどい作品が次々に現れている。

 たとえば、古代バビロンのライオン像とは比べようもない粗悪なライオン像が町中に建てられている。伝統的な街並みを誇るカルバラ市の繁華街にある「青い象」のモニュメントは一見して稚拙な作品だ。

 バスラ市の最も重要な歴史的建造物である詩人の銅像のそばに噴水が作られた。塗料を塗りたくった代物だ。これに3千万ディナール(約275万円)の資金を出して宣伝に利用したのは、イラクを代表する大石油会社だ。1か月で噴水が故障して止まってしまった。

 イラクの有名サッカー選手の彫刻がバグダッドの繁華街に置かれたが、当局からすぐに撤去された。無許可で設置したからだが、作品がお粗末すぎてSNSでも笑いものになっていた。

若い芸術家の奮闘も

 一方で、若い芸術家が街路や建物を素晴らしい記念碑や美しい彫刻で飾っている。ナシリア美術館に芸術性の高い彫刻作品を展示した彫刻家が現れた。ひどい文化状況でも優れた作品を生み出す人びとの願いとエネルギーが伝わってくる。

 粗悪な彫刻や建造物を並べ立て景観を破壊しているのは、腐敗したイラク政府や地方の行政機関だ。石油会社などグローバル資本も宣伝のために資金を出している。サナテレビは、文化や美術の面でもこのような不当な支配に反対しようと呼びかけている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)

 
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