2021年10月22日 1695号

【露骨な原発回帰人事/再稼働、新増設狙う岸田政権/原子力ムラの言いなりに】

 「言いなり」の相手は安倍・麻生だけではなかった―。岸田文雄首相は政府与党の重要ポストに原発推進派を多数起用した。たとえば、自民党幹事長の甘利明である。岸田自身、原発再稼働や新規建設に前向きだ。つまりは「原子力ムラ直轄政権」ということだ。

ワイロ甘利の別の顔

 甘利明の評判がすこぶる悪い。岸田内閣最初の支持率が5割に届かなかったのも甘利のせいと見られている。たとえば、支持率が49%だった毎日新聞の世論調査(10/4、5実施)では、甘利の自民党幹事長起用を「評価しない」との回答が54%にも上った。

 甘利は都市再生機構(UR)と補償交渉をしていた建設会社側から多額の報酬を得ていた問題が明らかになり、経済再生担当相を辞任している(2016年)。大臣室などで現金を受け取っていたのだ。そんな人物を党の資金配分を握る幹事長にするなんて、盗っ人に金庫番を任せるようなものだ。安倍・菅政権時代からの「政治とカネ」疑惑について、岸田が何一つ解明する気がない証拠である。

 さて、ワイロ甘利は原発推進派議員のリーダー格でもある。新増設や建て替えを掲げる自民党有志による議員連盟の最高顧問についている。また、経済産業省や電力・エネルギー業界に幅広い人脈を持っている。要するに「原子力ムラのドン」の一人なのだ。

 この甘利を筆頭に、岸田政権の中枢には原発推進派のキーマンがずらりと顔をそろえている。電力業界の幹部からは「エネルギー政策に通じた人が多く登用されている。やりやすい」と、歓迎の声が上がっているという(10/4毎日)。

中枢に原発推進派

 初入閣の山際大志郎経済再生担当相は「甘利の一番弟子」と言われる。自民党総裁選では、いち早く岸田支持を表明し、選対幹部を担った。今年2月の衆院予算委で「原発を使い倒さねば、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)はできない」と力説したこともある。

 安倍側近で、経済産業相になった萩生田光一は「脱炭素社会の実現に向けて、原子力を利用していくことは欠かせない」と述べ、原発再稼働を進めていく考えを明らかにした。核燃料サイクルも「引き続き推進する」と明言した。

 次期国会対策委員長に内定の高木毅は原発が立地する福井2区の選出で、党の原発推進議連(電力安定供給推進議員連盟)の事務局長を務めてきた。ちなみに、高木には女性宅に侵入して下着を盗んだ過去があり、地元ではパンツ泥棒として名が通っている。

 そして、高市早苗である。総裁選では、不十分ながらも再生可能エネルギーの比率引き上げをうたったエネルギー基本計画案について、「あれでは日本の産業は成り立たない」と見直しを主張。原発再稼働や新増設、小型原子炉の開発を急ぐよう訴えていた。

 その高市が自民党の政調会長に就任した。党の政策責任者になったのだ。原発回帰路線が加速することは目に見えている。

岸田も嘘つきだった

 岸田本人はどうなのか。総裁選で「再生エネ一本足打法では対応できない。原子力は大切な選択肢だ。将来的に小型炉、核融合につなげていくということだ」と述べるなど、原発推進の姿勢を打ち出している。

 小型炉は「安全で建設コストも安い」と宣伝されているが、事故のリスクがなくなるわけではない。そもそも原発である以上、使用済み核燃料=核のごみを出し続けるという根本的な問題は解決しない。

 核融合炉に至っては、技術的に実現の見込みがない代物である。これらは脱炭素政策の切り札でも何でもない。原発を維持したい原子力産業や政府の延命策でしかないのである。

 岸田は核燃料サイクルを維持する理由に「使用済み核燃料の処理期間短縮」をあげた。地中処分だと10万年かかるが、再処理すれば300年で済むと言うのだ。だが、高速増殖原型炉「もんじゅ」の破綻が示すように、これまた実現不可能な話というほかない。

 このように岸田は見え透いた嘘を平気でつく。一見、誠実そうな物腰にだまされてはなない。

  *  *  *

 前述の原発推進議連には甘利のほかに最高顧問がもう一人いる。そう、あの人だ。安倍晋三である。安倍は議連の設立総会で「国力を維持しながらエネルギー政策を考える上で原子力と向き合わなければならないのは厳然たる事実だ」とあいさつした。

 国力維持と原発推進。安倍の念頭には独自核武装能力の確保があるのだろう。そんな安倍の言いなりでは、岸田がいくら「私が目指すのは核兵器のない世界」と訴えても、信用する者は誰もいない。    (M)

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