2021年10月27日 1696号

【あぶない自民党選挙公約/軍事産業育成 監視体制強化の「経済安保」/「専守防衛」削除 軍事費倍増うたう】

「抜本的強化」宣言

 自民党の衆院選挙公約「政策BANK」(以下「21公約」)はかなり危ない。新総裁岸田文雄が唱えていた「分配戦略」は項目さえなく、「令和版所得倍増」などきれいさっぱり消えている。総裁は代わっても自民党は変わらない。「外交」「安全保障」の項目は19参院選挙用の「政策BANK」(「19公約」)に比べ、順序こそ後になったが安倍総裁時代以上に踏みこんだ表現が目立っている。

 まず、軍事費拡大。「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、防衛関係費の増額を目指します」。総裁選で、各候補者がこぞって軍事費拡大を口にしたのは党内タカ派の支持を得るためだけではなかった。「GDP1%枠」撤廃を公約に掲げ、「令和4年度から防衛力を大幅に強化します」と宣言しているのだ。

 過去最高額を更新し続けてきた軍事予算をさらに倍増し、一体何に使おうというのか。

 「(対中国、朝鮮民主主義人民共和国への)対応を抜本的に見直し」「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」など「新たな取り組みを進めます」。いわゆる「敵基地攻撃力」。中国、朝鮮への先制攻撃力を抜本的に強化すると言っているのだ。

 ちなみに「19公約」にあった「専守防衛を旨とし」との文言はきれいに削除している。「21公約」には「防衛技術・産業基盤強化に、大幅な予算増と抜本的な体制強化を実施」と戦争国家に必要な自前の軍需産業育成に意欲を見せている。自衛隊を「国軍」と呼ぶ機会を増やすに違いない。

公安調査庁を拡充

 「21公約」に新たに登場したのが「経済安全保障」。とはいえ岸田が言い出したものではない。すでに昨年4月、国家安全保障局に経済班ができた。さらにその前年、安倍政権が発動した韓国への経済制裁がきっかけだった。それがいまや担当大臣まで置く。何をするのか。

 まず、「機微技術」の扱いだ。機微技術とは軍事転用可能な技術のことをさす。具体的には「外国為替及び外国貿易法」(外為法)でリスト化されている技術・物質のことで、安倍政権が韓国の徴用工判決に対する報復として輸出管理を強化したフッ化水素もその一つ。半導体製造に欠かせない高純度の液化フッ化水素は日本製が8割から9割を占めている。だが結局、韓国はフッ化水素の国産化を進め、日本企業の独占的地位を脅かしてるという。

 場当たり政策が無残な結果に終わった彼らなりの反省なのだろう。「21公約」では「国家安全保障戦略に盛り込む」とし、「経済安全保障推進法」を制定するという。要は「半導体産業再生を目指し、国内における産業基盤強化」とあるように、自前の軍事技術・産業を産官学連携して強化するということだ。

 「経済安保」が扱うのは機微技術だけではない。

 例えば、重要土地規制法。この法律は経済安保の中に位置づけられて、制定された。重要施設周辺の土地を外国資本に買わせないためだという触れ込みだった。ところが、実際には基地や原発反対運動への弾圧が狙いだった。「21公約」では「安全保障」の項にくくり、「22年9月施行」にむけ政令を整備するとしている。

 つまり「経済安保」とは、軍事機密の流出防止に向けた企業や大学、個人に対する監視機能を強化することを狙いとしているのだ。事実、この項に「公安調査庁の情報収集・分析にかかる能力・体制を拡充」と書いている。戦争国家は監視国家でもあるのだ。

市民が審判を

 「外交、安全保障」の項には他にも見過ごせない「公約」がいくつもある。「安保理常任理事国入りに向けた取り組み加速」「国益に即したODAを質・量両面で拡充」など海外での権益争いを支える戦争国家への道をひた走っている。「普天間飛行場の辺野古移設や在日米軍再編を着実に進め」「日米地位協定のあるべき姿を目指す」。沖縄県民の声にも全国知事会からの要請にも答えようとしない自民党公約を実行させるわけにはいかない。

 沖縄・高江でのヘリパッド建設反対運動を弾圧するために安倍政権が行なった県外からの機動隊派遣に対し、名古屋高裁が違法判決を出した(10/8)。法令、条例など意に介さない与党の強権体質に痛打を与えた。次は総選挙だ。青天井の軍事費拡大と監視体制を強める自公政権を続けさせるのか、軍事費削減で対話外交を進める政権に代えるのか、市民が審判を下す時だ。

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