2021年10月27日 1696号

【医療機関を公立化し 医療従事者の大幅増員を/MDS18の政策/第5回医療制度の改革/医療を商品にせず公共の手にとり戻す(5)】

 衆院選に向けた自民党・岸田政権の医療政策は、あくまで「感染症有事における人材確保、対応力の実効的確保」「柔軟な医療体制」(政策BANK)であり、コロナ禍にもかかわらず、安倍・菅継承の公立・公的病院削減方針はそのままだ。必要なのは、市民連合と野党の共通政策が掲げる「医療費削減政策の転換」であり、「MDS18の政策」が強調する医療機関の公立化、医療従事者の大幅増など抜本的変革である。

最後の砦は公立公的病院

 日本の医療機関の最大の特徴は大部分が民間経営であることだ。しかも、政府の「地域医療構想」の下で国・公立と公的病院(日本赤十字社など)1538病院中440病院が再編統合されようとしている。小池東京都政は都立病院の地方独立行政法人化を進めている。民間病院が圧倒的に多いう事情から、感染症医療、小児科、産婦人科といった儲からない医療≠フ最後の砦は公立・公的病院が担ってきた。その公立病院の独法化は、市民の健康・命に対する行政の責任放棄だ。



 維新大阪府・市政は、小池都政の先を行く。大阪府、大阪市ともそれぞれ独法化を済ませている。大阪市に至っては、市立だった北市民病院を閉鎖し民間に移譲した。また、住吉市民病院も閉鎖後、民間病院を誘致しようとしたが失敗。診療所にスケールダウンした。その挙句、新型コロナ対応で松井市長は突然十三(じゅうそう)市民病院を丸ごと感染症専門病院化。「経営効率化」=地域医療切り捨て政策と「新型コロナ対策と地域医療の両立」は相容れず、大混乱をもたらした。

 独法化は、自治体から経営を完全に切り離し、自治体の関与は補助金のみ。独立採算制で儲ける医療≠強要するものだ。

 労働組合の「都庁職衛生局支部」は、独法化の実態を以下のように指摘する。▽個室料を取るため多人数病室が減って個室が多くなった▽個室料金が非常に高くなった▽入院に際して高額な保障料を納めないといけなくなった―などだ。

 実際、大阪急性期・総合医療センターは料金値上げで独法化1年で黒字化した。セカンドオピニオン料は7千円から2万1千円に、分娩費用は9万千円から18万円に、など患者負担が大幅増額されたのだ。

 東京は五輪、大阪は万博―と行政の根本姿勢が「人命より大規模開発」で「命の沙汰も金次第」となる。

国際水準の病床確保を

 国際的にみて日本の急性期病床は決して多くない。日本の病床数は「人口1000人あたり13・2でドイツの1・3倍。世界トップ」と言われているが、欧米諸国が「施設」に区分している精神科病床を日本だけが病床数に加えている。これを引くとドイツを下回る。また、慢性期で医療を必要とする長期療養施設も欧米諸国の基準に合わせるとG7平均の半分程度となり、急性期病院から追い出されると行き場がなくなる。

 これらの状況を踏まえ、「18の政策」では、一般病院床(精神科病床、感染症病床、結核病床、療養病床以外の病床)の増とそれを上回る長期療養施設の拡充を目指す。そして、健康保険制度の改革と相まって、被保険者(患者)負担なしでの医療供給体制を確保するため、公立病院化を必須とする。

過労死水準の医療従事者

 コロナ禍が浮き彫りにしたのは、医療従事者の圧倒的な不足だ。

 日本の医師は人口1万人当たり2・4人。OECD(経済開発協力機構)加盟38か国中下位5位、G7では最低だ。医師の養成には10年かかるが医学部卒業生はOECD34か国中、下から2番目。人口10万人あたり6・8人と平均の約半分だ(2019年)。



 医療の高度化と相まって、病院勤務医の時間外労働時間上位10%の年平均は1904時間、中には3000時間という例もある。4人に1人が鬱(うつ)状態、30人に1人が毎週・毎日自殺を考えている。

 「勤務医の働き方改革」でも厚生労働省の時間外労働上限案は一般勤務医で年960時間だ。研修医や救急医療に携わる医師の時間外労働上限は年1860時間。前者は過労死ライン、後者はその2倍。厚労省が自ら定めた過労死ラインをはるかに超える時間外労働を推進する。医師会や病院協会も「地域医療への影響」を理由に、時間外労働削減に反対した。

 看護師はどうか。16年時点で就業者は166万人、非就業の「潜在看護師」は70万人とされる(日本看護協会)。長時間繁忙を極める夜勤の常態化など、こちらも過酷な労働条件を強いられ、子育て・介護をしながらの勤務は極めて困難。だから70万人もの「潜在看護師」を生んでいる。

 養成が必要なのは医師・看護師だけではない。ECMOなど高度医療機器を操作する臨床工学技士、PCR検査など熟練を要する臨床検査技師の不足もコロナ禍はあぶり出した。

 地域医療を守るのは、過酷な勤務の放置ではなく、人員増だ。労働基準法遵守と、専門職として医療に集中できる環境整備のため、医療専門職の大幅増員を「18の政策」は強調する。




薬・検査ではなく人へ

 政府が医師・看護師の増員を拒む根拠の一つに1983年の「医療費亡国論」がある。「医師が増えれば稼ごうとするから医療費が膨張し国が傾く」という暴論だ。だが、実態は違う。総医療費は欧米諸国と比べ少ない。問題はその使われ方だ。

 医療費を決める「診療報酬」は、診察・看護など医師・看護師の人件費に薄く、検査と薬に厚い。

 高額医療機器の代表格であるCTの数は世界第1位。MRIを含めても第2位だ。高額機器の元を取るため、念のためCT≠ネど検査漬けが広がり、医療費をかさませる。薬の公定費用である薬価は、新薬は極めて高い。抗がん剤「オプジーボ」は100r73万円(月額300万円)だ。一方、米国でも30万円、英国で14万円とまだ安い。日本は抗がん剤の売上トップ4種だけでも年間1千億円。「医薬分業」の名で院外調剤薬局での薬販売が広がったが、大手薬局チェーンの進出で上位5社の売上は7847億円、22社では1・9兆円(18―19年)。5社の内部留保は計1400億円を超える。

 「18の政策」は医療費の使い道を製薬・医療機器企業の利潤保証から医療従事者の増員へと転換することを目指す。《この項終わり》
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