2021年10月27日 1696号

【時代はいま社会主義へ 第8回 資本主義社会とそのイデオロギーの変化(1) ―自由競争段階から独占段階へ】

 MDS(民主主義的社会主義運動)発行のテキスト『民主主義的社会主義をめざして』の第2章は、資本主義社会とそれを支えるイデオロギー(社会思想)の変化をたどっています。私たちが暮らしている社会は資本主義社会であるには違いないのですが、この社会は不断に変化しており、ときに質的な変貌(へんぼう)を遂げてきました。MDSテキストの第2章では資本主義のそうした発展段階を、(1)19世紀の自由競争段階の資本主義、(2)20世紀の独占段階の資本主義(帝国主義)、(3)第二次世界大戦後における大量生産と大量消費の資本主義、(4)20世紀末以降のグローバル資本主義というふうに区分しています。今回は、(1)と(2)について説明します。

 私たちは、資本主義社会にあまねく当てはまる一般的な特徴(その根幹には生産手段の私的所有と剰余価値の搾取があります)を把握するだけでなく、資本主義社会とそれを正当化するイデオロギーの変化を捉える必要があります。なぜなら、私たちがめざす民主主義的社会主義は、私たちがいま暮らしている社会の中で建設に着手しなければならないプロジェクトであり、したがって、社会主義的な変革を妨げている、あるいはそうした変革にとって役立つ条件を、私たちはそのつど特定しなければならないからです。

 そこで以下ではまず、関連用語の簡潔な解説を試みます。

 19世紀にとりわけ英国で発展を見た資本主義の最初の形態は、自由競争段階の資本主義でした。この資本主義は、企業経営の規模が小さく、1つの産業部門の中で多くの中小企業が競争しあっている状態にありました。主力産業は繊維産業でしたから、巨額の設備投資を要する大工場はまだ登場していません。

 この段階の資本主義を支えたイデオロギーは、経済学の父とも呼ばれるアダム・スミスらが唱えた自由主義でした。自由主義は、一方では土地や生産手段の私的所有を正当化しながらも、他方では国家権力による拘束からの自由(市民的自由)を提唱し、経済発展にとって邪魔になっていた封建制的な、あるいは絶対主義的な制約を批判したという点で、歴史において一定の進歩的な役割を演じました。

 しかし、19世紀の終わり頃になると米国やドイツでは、多額の投資を必要とする鉄鋼業や化学工業などの重工業が発達してきて、株式会社形態による社会からの大規模な資金調達方法も普及しました。こうして、旧来の自由競争段階に代わり、1つの産業部門を少数の巨大企業が支配する独占段階の資本主義(独占資本主義)が形成されます。そして、巨大化した生産力が必要とする原料資源や、この生産力が産み出す大量の工業製品の販路を求めて、資本主義大国は植民地獲得競争に乗り出します。この競争を背景として第一次世界大戦が勃発(ぼっぱつ)しました。したがって、独占資本主義は帝国主義の経済的基礎でもありました。

 資本主義が独占段階に達すると、自由主義思想は説得力を失います。なぜなら、市場を支配しているのはもはや自由競争ではなく独占資本であり、独占資本は国家権力をしりぞけるのではなく、むしろ植民地獲得のための国家の権力と軍事力を歓迎するからです。こうして、この時代の支配的なイデオロギーとしてのナショナリズムが台頭してきます。   《続く》
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