2021年10月27日 1696号

【腰砕け、ブレまくりの岸田首相/金融所得課税の強化「撤回」/しょせん自民は金持ちの味方】

 スポンサー様には逆らえない―。格差是正のために再分配機能を強化すると力説していた岸田文雄首相が、その具体策を次々と「封印」し始めた。たとえば、富裕層優遇が際立つ金融所得課税の見直しである。誰が代表者になろうが、自民党はしょせん大企業やカネ持ちの味方でしかないということだ。

「当面は触らない」

 「私の想い、私が提示してきた政策に一点のブレも後退もない。大切なことは優先順位をしっかりつけ、一つ一つ着実に実施していくことだ」。衆議院の解散を受けた記者会見で、岸田首相はこう語った。わざわざ強調するのは、発言のブレや後退への批判を気にしている証拠である。

 岸田は10月8日の所信表明演説で、持論の「新しい資本主義の実現」を目指すと述べた。新自由主義的な政策が「富めるものと富まざるものとの深刻な分断を生んだ」と指摘し、分配を重視する経済政策で格差是正を図る考えを示した。

 だが、自民党総裁選では格差是正の具体策に掲げていた「金融所得課税の見直し」には言及しなかった。10日に出演したフジテレビの番組では、この件に関して「すぐにやるんじゃないかという誤解が広がっている」と釈明し、「当面は触ることは考えていない」と明言した。

 明らかな後退だが、その原因は自民党のスポンサーであるグローバル資本の猛反発だ。たとえば、ITの新興企業などが多く加盟する経済団体「新経済連盟」は金融所得課税強化に反対する声明を発表(10/6)。代表理事の三木谷浩史(楽天会長)は自身のツイッターで「新資本主義ではなく、新社会主義にしか聞こえない」とこきおろした。

 さらに「岸田売り」とも呼ばれる新政権発足以降の株価急落が追い打ちをかけた。資本家と市場にダメ出しをくらい、あえなく降参したというわけだ。

不公平税制の典型

 富裕層はなぜ金融所得課税の強化に反対するのか。答えは簡単。現行制度は株取引で得た所得にかかる税率が低く、株で多くの利益をあげる富裕層はその恩恵にあずかっているからだ。

 税は本来、経済的な能力に応じて負担することになっている。これを応能負担原則と言う。所得税の仕組みがそうで、所得が高くなるほど税率も上がる(累進課税)。現在の最高税率は45%で、住民税を合わせると55%になる。

 ところが、株式の配当や譲渡などの金融所得は給与など他の所得とは別枠になっている。現行制度では復興税を含む所得税に住民税を足した一律20・315%の税率が単独で課される。

 これは金融所得課税としては国際的にみて相当低い税率といえる。米国の最高税率は37%+州・地方政府税となっている(一律ではなく段階課税制を採用)。フランスは30%、ドイツは26・375%だ。

 日本の株取引への優遇税制は異常であり、これが税の応能負担原則とは真逆の現象を生じさせている。年間総所得1億円を境に、高額所得者ほど所得税の負担率が大きく下がっているのである(1億円の壁)。

 カネ持ち減税をやりすぎて税収不足に陥り、逆進性が強い消費税を上げるなんて馬鹿げている。これを是正するのは当然のことであって、「新しい資本主義の実現」などと大げさに言うほどの政策ではない。

 しかし、岸田は自身の目玉公約だった金融所得課税の強化を自民党の選挙公約に入れなかった。グローバル資本に釘を刺された途端に腰砕けになるようでは、あまたある大企業・富裕層優遇の不公平税制をただすことなどできるはずがない。手厚い分配、格差是正は口先だけのことだ。


自民党ではダメ

 金融所得課税問題の完全スルーは序の口で、自民党の衆院選公約は岸田が語っていた分配政策(子育て世代への教育費・住居費の支援強化など)をことごとく除外している。安倍・菅政権との違いを意識して打ち出した政策は完全に形骸化したと言ってよい。

 あきれたことに、所信表明演説では「分配なくして成長なし」と訴えていた岸田が、3日後の衆院本会議では「成長なくして分配なし」と正反対のことを言っていた。自民党は所得の再配分がとことん嫌いなのだろう。儲けることにしか興味がない強欲企業や富裕層の味方だから、当然と言えば当然のことである。

   *  *  *

 岸田は15日に放送された日本テレビの番組で、金融所得課税の強化を首相在任中に実施するかと問われ、「取り組みが早く進めばあり得る」と語った。その場しのぎと言うか、発言がブレまくっている。

 自民党が政権に居座る限り、コロナ禍で広がった格差の是正も経済と生活の再建もない。    (M)

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