2021年10月27日 1696号

【読書室/私たちはなぜこんなに貧しくなったのか/荻原博子著 文藝春秋 1700円(税込1870円)/政府にだまされ続けた30年】

 日本の現状は「劣化し坂を転げ落ちている」状態にある。それは、経済や暮らし、政治の場面で実感できる。賃金は下がり続け、税金は上がる、総理大臣が国会で百回以上も嘘をついても罰せられない―などなど。

 著者は、生活者の視点から経済の仕組みや問題を指摘してきた。本書は、この30余年間の経済と暮らし、「庶民が政府に騙(だま)され続けた歴史」をたどり、現状の問題点につなぐものだ。暮らしに直結する年金削減、格差を増長した消費税、「シティバンク」などの問題点をあばき、総じて「劣化」に向かって時代が動いていた、と展開する。

 年金では、複雑な年金制度をわかりやすく解説しながら、問題がどこにあるのかを明らかにしていく。それは、政府のウソをあばくことでもある。2019年に安倍首相(当時)は「マクロ経済スライドも発動されましたから、いわば『(年金が)100年安心』ということは確保されました」と国会で答弁した。

 マクロ経済スライドとは、年金自動削減の仕組みである。この仕組みの発動で100年安心とする意味は、市民の年金制度が100年安心なのではなく、政府が安心できることなのだ。

 その他▽この30年で起きたのは「トリクルダウン」ではなく「富の吸い上げ」▽「小泉改革」での企業倒産数はリーマンショックより多かった―本書は市民が痛めつけられた様相を端的な事実で映し出す。

 経済ジャーナリストの著者は変革の方向を示しているわけではない。だが、本書の事実から、元凶である新自由主義と決別し根本的転換へと変革する以外に未来はないことを改めて確信することができる。(I)
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