2021年11月05日 1697号

【ツイッターで野党攻撃のDappi/自民が雇った業者のしわざ/フェイクニュースで印象操作】

 ツイッター上で野党攻撃をくり広げてきた匿名アカウント「Dappi」。その手口は国会質疑の動画などを編集して作成したフェイクニュースを拡散するという悪質なもの。「野党は文句ばかり」という印象操作が狙いだ。発信情報をたどると、自民党に雇われた業者の運営であることが分かった。

訴えられて発覚

 「Dappi」は2019年6月に開設されたツイッターアカウント。プロフィール欄には「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです。国会中継を見てます」とある。野党議員を激しく攻撃し、自民党議員を誉め讃える投稿を頻繁に行ってきた。

 フォロワー数17万超の匿名アカウントの正体が浮上したきっかけは、立憲民主党の小西洋之・杉尾秀哉両参議院議員がDappiの投稿で名誉を傷つけられたとして起こした裁判だった。ツイッター社などに発信者の情報開示を申し立てたところ、個人ではなく法人の運営であることが明らかになったのだ。

 その法人は都内に本社を置くWEB制作会社で、取引先には自民党の名前があった。さらに、自民党東京都支部連合会や小渕優子元経産相の資金管理団体とも取引があったことが政治資金収支報告書の記載から判明している。

 「政党が情報発信活動を業者に外注すること自体は問題ない」と思われるかもしれない。しかし、Dappiは事実を歪曲した虚偽情報を作成し、一般市民を装って拡散してきた。意見表明や批判の範囲を完全に逸脱している。

 提訴に踏み切った理由を小西議員はこう語る。「私の国会質疑の趣旨をまったく別のものに仕立て上げて改変し、やりとりの断片を切り取ってツイッターに投稿していた。そんなことが何度か繰り返され、信用や人格を傷つけられた」(10/13東京新聞)。

 具体的にはどういうものなのか。Dappi流フェイクニュースの手口をみていこう。

捏造動画を拡散

 小西議員らが名誉棄損で訴えたのは、森友学園をめぐる公文書改ざん問題に関する投稿。「近財(近畿財務局)職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間つるしあげた翌日に自殺」という内容だ。もちろん事実ではない。自殺した職員は当時休職中で出勤していないし、そもそも両議員が出向いたのは東京の財務省である。

 次は、Dappiが最も得意としている捏造動画だ。「哀れすぎる枝野」との一文がついた1分半ほどの動画がある。今年6月の党首討論を抜粋したもので、これだけ見ると菅義偉首相に論破された立憲・枝野幸男代表が「党首討論に相応しくない話!」と逃げたかのような印象を受ける。

 しかし、枝野代表が「党首討論に相応しくない」と指摘したのは、菅首相が長々と語った前回東京五輪の「思い出話」のことであった。Dappiは菅の答弁を大幅にカット。さらに枝野発言を別のくだりに貼り付け、虚構のやりとりを作ったのだ。

 福山哲郎幹事長が政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長を罵倒しているかのように見える動画も編集で事実をねじ曲げたものである。福山幹事長が声を荒げたのは、さかんに野次を飛ばす安倍晋三首相(当時)に対してなのだ。なのに、このインチキ動画は2万件以上リツイートされ、福山叩きの燃料となった。

 以上の手口から明らかなように、Dappiの目的は野党の主張や政策の批判ではない。印象操作によって「野党は文句しか言わない」「人の足を引っ張ってばかり」という嫌悪感を抱かせればOKであって、それには虚偽情報のほうが手っ取り早いというわけだ。

 ツイッターの投稿の真偽を確かめるためにわざわざ時間を割く人は少ない。普通の社会人や学生が国会中継をこまめにチェックするなんてまず無理だ。そこがDappiのようなフェイクニュースの作り手の付け目なのである。

党ぐるみのネット工作

 「しんぶん赤旗日曜版」(10/24号)の報道によると、Dappi運営企業の社長は「自民党本部の事務方トップ・事務総長の親戚を名乗り、自民党本部や国会などに出入りしていた」という。記事中の事務総長とは「自民の金庫番」「影の幹事長」とも呼ばれる元宿仁(もとじゅくひとし)のことである。

 また、Dappi運営企業は歴代の自民党経理局長や財務委員長が代表取締役を務めてきた企業とも取引実績があった。この企業は「株式会社システム収納センター」といい、岸田文雄首相や甘利明幹事長も代表取締役に名を連ねていたことがある。

 同社には年間4千万円もの「寄付・交付金」が自民党本部から渡っている。人的にも金銭的にも事実上の子会社なのだ。ここを経由してネット世論工作の報酬が支払われていたと見られている。党ぐるみのデマ宣伝だったということだ。

民主主義を壊す

 フェイクニュースを使った世論操作は世界中で問題となっている。「現政権維持」や「敵対者への攻撃」のためのネット工作を請け負うビジネスも勃興している。ニセ情報の氾濫は人びとの判断を誤らせる。民主主義の危機だ。

 先日、オーストリアのクルツ首相が辞任に追い込まれた。自分に有利な世論が形成されるように世論調査会社やメディアグループを公金で買収した疑いで、検察当局の強制捜査を受けたためである。

 Dappi問題はこれと同レベルの政治スキャンダルだ。総選挙の時期だからこそ絶対に追及すべきテーマであった。なのに主要メディアの大半は取り上げなかった。これでは自公政権延命の協力者と言われても仕方ない。

    (M)



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