2021年11月12日 1698号

【朝鮮核開発口実に先制攻撃と軍拡へ/根本的解決は朝鮮戦争の終結】

 10月19日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)は、日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。国営メディア朝鮮中央通信によると、発射したのは潜水艦発射型の弾道ミサイル(SLBM)という。朝鮮のミサイル発射は今年6回目で9発以上。2020年の8発を上回った(NHKまとめ)。これは、東アジアの軍事緊張を高める挑発であり許されるものではない。

 岸田文雄首相は同日、「北の核・ミサイル関連技術の著しい発展は日本と地域の安全保障にとって見過ごすことはできない。いわゆる敵基地攻撃能力の保有も含め、あらゆる選択肢を検討するよう改めて確認した」と述べた。自民党も選挙公約で「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みを進める」としている。軍事費の額も対GDP費1%枠を見直し、NATO(北大西洋条約機構)並みの2%以上を狙っている。

 自民の補完勢力、日本維新の会はどうか。マニフェスト「維新八策」で、軍事費対GDP比1%枠を撤廃し「領域内阻止能力の構築について、積極的検討を進める」としている。

 自民・維新とも「領域内」と言い換えて印象を薄めようとしているが、敵基地攻撃能力≠ナあることは過去の言説からも明らかだ。

市民の命が危ない

 では、敵基地攻撃能力保有の何が問題か。

 まず、市民の命を危険にさらすことになる。自民・維新が「敵」とするのは朝鮮だ。敵基地攻撃能力を持てば、朝鮮のミサイル基地を先制攻撃できる。朝鮮側からすれば、攻撃される前に攻撃しようとするだろう。日本の軍事基地は、沖縄だけでなく全国どこでも住宅地や民間施設に近接している。攻撃を受ければ市民の犠牲は免れない。第一、今回発射されたのがSLBMであれば、発射場所の特定は困難で敵基地攻撃能力に実効性がないことは多くの軍事専門家も指摘する。

 次に、際限のない軍事費増を招く。一度敵基地を攻撃すれば、徹底的に叩きのめさねばならない。そうでないと反撃されるからだ。そのためには大量の兵器を準備しなければならず、反撃に対する備えも必要となる。「弾道ミサイルからの防衛」を口実に導入が狙われたイージスアショアはいったん断念したものの、海上設置案が浮上している。とてつもない金額を投入することになるだろう。

 「敵」も防御を固めて攻撃力を向上させ、日本はそれを上回る攻撃力・防御力を増強し…とイタチごっこが際限なく繰り返される。

 「敵基地攻撃能力で防衛」などというのは、自民・維新の夢想にすぎない。

 とはいえ、現実の日本は、装備としては敵基地攻撃能力の保有を決定したも同然の状態にある。
 防衛省は2020年度予算概算要求で、貫通甲板を持つ海上自衛隊護衛艦「いずも」「かが」の改修費用を計上した。短距離離陸と垂直着陸が可能な最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載するためだ。併せて、敵の射程外から攻撃できる長距離ミサイルの開発も同年度から着手予定だ。

 敵基地攻撃能力保有≠ヘ既成事実化されている。自民・維新が目指すのは敵基地攻撃能力を行使できる法整備=Aつまり日本国憲法の平和主義を完全にないがしろにすることだ。

日米の敵対政策が原因

 朝鮮が核ミサイル開発を進めるのは、日米の朝鮮敵視政策に対抗するためだ。

 もともと1990年代に朝鮮と各関係国政府間で朝鮮の核開発凍結と関係国から朝鮮へのエネルギー支援という合意ができていた。だが、米国がこれを反故(ほご)にし、経済制裁を継続・強化。まともな外交交渉を行わないまま、朝鮮が核ミサイル開発能力を持つまでの時間を与えた。2018年、朝鮮半島非核化共同宣言を結ぶなど韓国・文在寅(ムンジェイン)政権は交渉を続けてきたが、日本政府は朝鮮核開発を自らの軍拡の正当化のために利用してきた。

 根本的解決のためには、日米が朝鮮の軍事的脅威を戦争政策の口実にできない状況を作らなければならない。その大きな要素は、休戦状態にある朝鮮戦争を終結させることだ。日本が日朝国交正常化を実現することだ。日米韓合同演習など武力による威嚇(いかく)を一切止め、朝鮮半島の緊張緩和に責任がある日米中露が朝鮮・韓国両国と真剣に外交交渉を重ねなければならない。



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS