2021年11月12日 1698号

【時代はいま社会主義へ 第9回 資本主義社会とそのイデオロギーの変化(2) ―大量生産・大量消費からグローバル化へ】

 前回は、19世紀の自由競争段階から20世紀の独占段階への資本主義の変化を説明しました。今回は、第二次世界大戦後から21世紀初頭にかけての変化について述べます。

 1945年に第二次世界大戦が終結したあと、資本主義世界において他の国を凌駕(りょうが)する経済力と軍事力を誇ったのは米国でした。米国は、その圧倒的な金(きん)保有を後ろ盾にして固定相場制を打ち立て、自由貿易を促進しようとしました。そして他の資本主義各国には、米国生まれの大量生産・大量消費にもとづく独占資本主義が浸透していきました。それは、規格化された商品を大量に生産することで生産コストを下げ、安価になった商品を大量に販売し消費させるシステムでした。厳しい労務管理とベルトコンベア方式とを結合した大量生産のシステムは、その元祖である自動車産業だけでなく、家電製品を生産する業種にも波及していきます。こうして自動車、テレビ、冷蔵庫、エアコンなどはもはや〈ぜいたく品〉ではなくなり、貯金や借金をすれば労働者階級にも手の届く〈消費財〉となったわけです。大量生産・大量消費のシステムは、日本を含む発達した資本主義国に高度経済成長をもたらしましたが、それは裏面では、公害、発展途上国からの資源の略取、化石燃料の大規模な消費という負の側面をともなっていました。

 この時代の支配的なイデオロギーは、英国の経済学者であるJ・M・ケインズの学説にもとづくケインズ主義でした。ケインズ主義は、資本主義において不可避である不況の局面を、国家の財政支出による消費刺激策でもって克服することを説き、大量消費を後押ししました。

 しかし、そうした経済成長は、規格化された消費財が国内でもはや売れなくなり、1970年代初めのオイル・ショックによる原油価格の急騰にともない、終わりを迎えました。1970年代には、インフレーションと不況が同時進行するという事態に資本主義国の多くが直面します。

 こうして1970年代末になると、資本主義の新しいイデオロギーである新自由主義を体現する政権が登場します。そうした政権の典型例は、英国のサッチャー保守党政権や米国のレーガン共和党政権に見いだされます。新自由主義は、ケインズ主義が唱えたような国家による財政支出や経済規制・指導を批判し、資本と市場の自由を最大限に擁護しました。それは具体的には、国営・公営企業の民営化、資本への規制の緩和・撤廃、企業減税と緊縮財政の実施、労働組合への攻撃などを通じて、企業の利潤を増やすことをねらったのでした。

 新自由主義の台頭とともに、資本主義による世界的な規制緩和策動ともいうべきグローバル化が始まります。戦後の固定相場制は1973年以降に変動相場制へと移行し、1974年からは国境を越える資本移動の自由化が各国で進められました。そして、OECD(経済協力開発機構)の勧告や、IMF(国際通貨基金)による融資に条件として付された政策強制によって、新自由主義は発達した資本主義国だけでなく発展途上国にも波及していきます。したがって資本主義のグローバル化とは、国家の助けを借りずに市場経済がひとりでに国境を越えて拡張していく過程ではありません。それはむしろ、1970年代における資本主義の危機を克服するために独占資本と有力な国家が採用した政治戦略なのです。 《続く》
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