2021年11月12日 1698号

【ドクター 抗体カクテル療法を考える】

 新型コロナ治療薬の宣伝が盛んです。コロナ感染者は軽症を含めれば莫大な数です。これまで多くの「治療薬」が使われてきましたが、有効性が科学的に示されたのは重症者への安価なステロイド療法だけでした。

 7月に、抗体カクテル療法というコロナウイルスに対する2種の抗体を人工的に作った点滴薬が「入院または死亡を70%減らす」を宣伝文句に日本で「特例承認」され、政府は世界最大製薬企業ロシュ社から50万人分確保したとのことです。

 私は、この薬の効果と害について公表されている研究論文などを検討し、9月の医療問題研究会例会で報告。『薬のチェック』誌の浜六郎氏などの指摘も受けた後、医問研ニュース(ebm-jp.com)に掲載しました。

 結論は、この薬は発病初期に使用すれば「入院または死亡」を7割程減らし、薬の害作用を差し引いても効果があると考えられることです。また、入院患者でも、感染初期なら3割程死亡を減らす可能性が高いとのデータもありました。

 「入院または死亡」を7割減らすと言われると、使用した人の7割に効くかの印象を持ちますが、コロナ感染者の中で治療のため入院、まして死亡はまれです。日本の審査当局へ提出されたロシュ社の治験データでは、「入院または死亡」がカクテル群では1%、偽薬(生理食塩水)群で3・2%、その差は2・2%です。100人治療して2・2人減らすだけですから、あとの97〜98人には利益はないわけです。しかし、少数とは言え重症化を防ぐことは大きな意味があります。

 もちろん、これらの結論は製薬会社主導で作られたデータからのものです。製造販売元は、タミフルで嘘をついた世界最大のロシュ社です。今度は嘘でなく、その証拠としてすべてのデータの開示を願っています。

 さらに、少ないとは言え重篤な有害作用はあります。5871人使用中、血中酸素の低下、狭心症、血圧低下合わせて4人の生命を脅かす有害作用が企業から報告されています。使用開始当初は入院して点滴し、一晩は経過を見ていました。最近は在宅での使用まで推奨されていますが、安易な使用は勧められません。

 この薬剤は極めて高価で、1人分31万円、1人入院を防ぐのに1400万円、50万人分で1550億円です。医療体制充実など他のコロナ対策にかける費用との比較検討も必要です。

  (筆者は小児科医)
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