2021年11月12日 1698号

【内部告発が暴いたフェイスブックの闇/憎悪と差別煽動で丸儲け/民主主義を殺し社会を壊す】

 SNS最大手フェイスブックの暗部が内部告発によって暴かれた。自社の利益を上げるために、差別を煽動するヘイト表現を助長してきたのである。これを民主主義の危機ととらえた欧米諸国では、巨大IT企業に対する規制強化に動き出している。日本は「蚊帳の外」でいいわけない。

巨大な影響力

 ネットがテレビを逆転した―。総務省が発表した情報通信メディアの利用時間に関する2020年度調査によると、平日の平均利用時間で「インターネット利用」(168・4分)が「テレビ(リアルタイム)視聴」(163・2分)を上回った。調査開始以来、初めてのことである。

 全年代ではわずかの差だが、10代20代となるとネット利用がテレビ視聴を完全に圧倒している。10代はネットが224・2分に対し、テレビは73・1分。20代はネット255・4分、テレビ88分であった。

 ちなみに「新聞閲読」は8・5分しかない。年代別では10代1・4分、20代が1・7分であった。そもそも新聞を読む人は4人に1人しかいない(25・5%)。10代となると学級に1人いるかいないかのレベルなのだ(2・5%)。

 このようにインターネットの影響力は増す一方だ。メディアの主役になる日は近い。しかしネットの世界は誹謗中傷や人格攻撃、差別煽動の言説であふれ返っている。どうしてそうなったのか。背景には、ネットの支配者として君臨する巨大IT企業の利益至上主義があった。

中毒にさせる仕組み

 世界最大のSNS企業フェイスブック(FB)が社名をMeta(メタ)に変更した。メタバースと呼ばれる仮想空間の開発に事業に軸足を移すためだという。しかし本当の狙いはイメージの刷新にある。それぐらい、同社に対する批判が高まっているのだ。

 きっかけは元社員の内部告発だった。内幕を暴いたのは誤情報拡散防止チームの一員だったフランシス・ホーゲンさん。彼女はこう訴えている。「FB社のサービスは子どもに害を及ぼし、社会の対立をあおり、民主主義を弱体化させている。それなのに同社幹部は自分たちの利益を利用者の安全よりも優先し、必要な対策を行っていない」

 ホーゲンさんが語ったのは、利用者をフェイスブック中毒にする仕組みである。利用者がより多くのコンテンツを消費するほど同社は儲かるのだ(巨大IT企業の利益の源泉である個人情報をたくさん吸い上げられるということ)。

 「感情が大きく揺さぶられるコンテンツは夢中になります。怒りの感情が起きるものほどもっと見たくなります」(ホーゲンさん)。そこでFB社は憎悪に満ちたコンテンツを積極的に表示させ、そこに利用者を誘導していった。利用者のつなぎとめにヘイト表現を利用したのである。

 ホーゲンさんによれば、有害情報を拡散し差別煽動を助長しているという研究報告が社内で上がっていたが、経営陣によって隠蔽されたという。彼らにとっては人権侵害を防ぐことよりも、自分たちのカネ儲けが大切だからである。

 ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「そうした問題を抱えているのは当社だけではない」と弁明する。実際そのとおりなのだ。たとえば、人工知能を使ったツイッターの表示機能には「右派推し」の偏りがあることが同社の調査で判明している。

 巨大IT企業はヘイト表現を助長し、広がるように仕組んできた。すべては儲けのためだ。別の言い方をすると、民主主義の土台を浸食することで急成長を遂げてきたのである。

規制強化の動き

 FB問題を受け、米国では規制強化の動きが強まっている。米上院司法委員会の超党派の議員らは10月18日、巨大IT企業による自社製品の優遇を禁じる法案を提出。自社に有利になるような検索結果の操作を禁止することや、違反した場合の制裁金の引き上げを盛り込んだ。

 また、下院エネルギー商務委員会の民主党議員らは10月15日、インターネット企業に免責特権を与えている通信品位法230条の改正案を提出した。利用者の身体的および精神的被害につながるコンテンツを推奨する仕組みを意図的に使った場合、同条による保護をなくすとしている。

 通信品位法230条については説明が必要だろう。1996年、利用者による投稿内容にネット企業が責任を負わなくていいとする免責条項(230条)を含む通信品位法が米国で成立した。規制や訴訟からネット企業を保護することで、インターネットを利用した新しい産業の育成を促そうとしたのである。

 起草者たちはインターネットが無法地帯にならないように、事業者らが自発的なルールを作り上げていくことを期待していた。しかし実際には、訴訟リスクが消えたのをいいことに、強欲な資本家たちは事業規模の拡大に邁進していった。人権侵害を防ぐことは置き去りにされた。

 そして今、企業の免責特権を見直す動きが広がっている。ネットがたれ流すヘイト表現を放置していては、対立と分断が激化し、社会が壊れてしまうという危機感が幅広く共有されていることの証しといえよう。

  *  *  *

 日本はどうなのか。前号で取り上げたDappi問題のように、自民党がヘイト言説をまき散らして野党攻撃をしている疑惑が浮上しているにもかかわらず、大手メディアの多くは報道すらしていない。ネット発のフェイクニュースの危険性について、あまりにも鈍感というほかない。

 儲かれば何でもいいという強欲ネット企業の振る舞いを野放しにすれば、社会は憎悪で崩壊する。「デジタル改革」などと浮かれている場合ではない。(M)



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