2021年12月03日 1701号

【土木屋奥間の正義の闘い(2)/見逃さなかった地質調査船ポセイドンの動き/辺野古調査団 活断層を焦点化】

 私は土木技術者として20年以上にわたり、あらゆる公共工事にかかわってきた。中でも1999年から02年にかけて、沖縄北部、今帰仁村(なきじんそん)古宇利(こうり)大橋橋脚の難工事を工事責任者として経験したことが、辺野古問題を技術的視点から捉える力を発揮する機会につながった。それが学者・技術者による調査団の結成にも関わることになる。


防衛局が墓穴

 辺野古の大きな問題に活断層と軟弱地盤の存在がある。埋め立て変更設計不承認の重要な根拠になるものだ。この2つの問題は絡み合いながら発覚した。

 まずは活断層問題。沖縄防衛局は大浦湾の埋め立て工事のために17年2月から4月にかけて調査船ポセイドンを使い詳細な地質調査を行った。埋め立て工事は素人同然の防衛局。国土交通省から出向した技官が工事を中断させ、追加調査をさせたのだ。

 私は沖縄タイムス記者に教えてもらった船舶の位置が把握できるインターネットのサイトを活用し、ポセイドンの航跡を収集した。地図上に記すと埋め立て護岸の計画位置付近を集中的に調査していることがわかった。

 大浦湾の環境調査を行っている知人にデータを提供したところ、17年5月、ある地理学者から重要な情報がもたらされた。国土庁(当時)が作成した 「土地分類基本調査」(91年)の表層地質図がある。陸地の断層がわかるものだが、断層は陸地でとどまることはない。その地理学者は大浦湾に続く断層の想定ラインを引いた図を提供してくれた。ポセイドンの航跡データと重ねると、沖縄防衛局が集中的に調査している付近を通過していた。

 明らかに大浦湾の地盤に何らかの問題があることを確信して、あらゆるメディアに情報を提供したところ、「しんぶん赤旗」の記者が地質学者の琉球大学名誉教授加藤祐三先生を取材し、17年9月24日、1面トップで「辺野古に活断層」と報じた。1か月後には地元紙の琉球新報も1面トップで取り上げたことで地盤問題が大きく動き出すことになった。


役に立ったドローン

 活断層の存在は大きな話題になり、「辺野古に基地を造らせないオール沖縄会議」も動き出した。18年2月14日に加藤先生をはじめ新潟大学名誉教授立石雅昭先生と三重大学名誉教授目崎茂和先生の3人の地質学者による大浦湾の活断層シンポジウムを開催、各々専門の立場で地盤の問題を詳しく解説した。

 新潟柏崎刈羽原発の運転阻止に尽力した立石先生からは「学者や技術者が正しい情報を与えることで運動は強くなる」という力強い発言があった。また加藤先生は「1人の学者が活断層と訴えても御用学者につぶされるが、10人集まれば国と闘える」と語った。権力に対抗するためにはこのような理詰めで闘える学者が運動に関わることが絶対に必要だと感じたシンポジウムだった。

 3人の先生には私のドローン写真や解説図などを提供し、役立ててもらえた。

学者・技術者が集結

 このシンポジウムを機に新たな動きにつながった。4月、ある会合に集まった学者や技術者に立石先生が呼びかけて結成されたのが「沖縄辺野古調査団」だ。

 この調査団には地質学の専門家だけでなく土木工学の技術者など優秀なメンバーがそろっている。加藤先生の言葉通り「10人集まれば国と闘える」ということが実現できたのだ。私もこの調査団のメンバーとして関われることを誇りに思う。

 自治体の土木技術職員であった北上田毅さんは沖縄防衛局が実施した地質調査報告書の情報公開請求を行っていた。それが開示され公になったのが活断層シンポジウムが終わった翌月の3月のことである。

 活断層問題に取り組むために結成された調査団だが、北上田さんが入手した報告書によって、大浦湾の海底には軟弱地盤が存在していることが発覚した。調査団は軟弱地盤問題にも取りかかることになった。(続)

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