2021年12月03日 1701号

【コラム見・聞・感/ようこそ! 新経産省事務次官】

 少し前の話になるが、経産省は、多田明弘・大臣官房長を事務次官に昇格させる人事を7月1日付で発令した。事務次官は中央省庁の組織で官僚としての最高ポスト。多田は経産官僚トップに昇任だ。

 筆者は、多田新経産次官と過去に一度、直接対決したことがある。2015年10月9日、札幌で開催されたNUMO(原子力発電環境整備機構)主催の核ごみ地層処分説明会でのことだ。

 「核ごみ地層処分は日本では不適当。地上での暫定保管に切り替えるべきだ」とした日本学術会議の提言を受け取ったのが、近藤駿介・内閣府原子力委員会委員長(当時)。ところがその近藤が、学術会議によって否定されたはずの地層処分を推進するNUMOの理事長に就いている。説明会で司会者に指名された筆者は「こうした人事は矛盾であり撤回すべきだ」と迫った。

 この筆者の質問に対し、「近藤理事長は原子力分野における第一人者であり、専門的な知識を持ち、原子力政策の流れもご存知であることから、地層処分を進めるにあたって理事長に就任いただくのは妥当な判断と考えている」と答弁したのが当時、資源エネルギー庁電力・ガス事業部長の多田。隙はないが、論点を巧妙にずらし、核心部分には答えない。国会でよくある典型的「官僚答弁」だ。手堅いな、というのが多田の第一印象だった。

 筆者は、霞ヶ関の官僚業界を長くウォッチしてきたが、各省庁にはカラーがある。財務省は「手堅い」、経産省は「抜け目がなくチャラい」というのが一般的なイメージだ。若手経産官僚2人が今年夏、持続化給付金詐欺で逮捕されたニュースを聞いても「経産省ならやりかねないな」というのが正直なところで、まったく驚かなかった。だが多田にはこうした経産官僚特有の「軽チャー」がない。「経産省的な浮ついたところがなく、どこの役所にいても出世するタイプ」(財界関係者)との人物評は当たっていると思う。

 NUMO説明会では時間切れとなってしまったが、多田事務次官にあらためてぜひ聞いてみたいことがある。「この福島の惨状を見ても原発をやめたいと思わないのか」

 岸田新政権が原発回帰の流れを強める中、もし多田次官の考えが新政権追認の原発再稼働なら、あの事故を経験した元福島県民として、今度は時間無制限でもう一度勝負したいと思う。 (水樹平和)
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