2021年12月03日 1701号

【読書室/亡国の東京オリンピック/後藤逸郎著 文藝春秋 本体1500円(税込1650円)/金権腐敗五輪はもう要らない】

 「オリンピック強行開催で得をしたのは誰だ!」が本書のキャッチフレーズだ。

 五輪開催で支持率回復を狙ったのは菅前政権だった。自民党幹部は「いくら反対を叫んでも、オリンピックが始まれば、国民はメダルラッシュに夢中になる」。安倍前首相に至っては「オリンピック反対を叫ぶ人は反日」と決めつけた。彼らにはコロナ禍に苦しむ人びとの姿は目に入らず、五輪で政権支持率は回復する≠ニいう愚民思想で開催強行に突き進んだ。思惑どおりにいかなかったことは菅退陣で明らかとなった。

 本書は、「ぼったくり男爵」と称されたIOC(国際五輪委員会)バッハ会長の実像にも迫る。

 IOCが商業主義を徹底していくのは1980年代のサマランチ会長時代。バッハはサマランチ・チルドレンとしてこの商業主義路線を強力に推し進めた人物だ。莫大な公式スポンサー料制度を創設し、大会ごとに放映権料をつり上げ、総資産を80年代初めの4億円から実に1500倍の約6千億円に増やした。

 フェンシングのメダリストであったバッハには、ドイツ経済界とスポーツ界で勢力を伸ばし、さまざまな利権に手を染めた闇の歴史がある。彼がスポーツビジネスを学んだのは、アディダスと日本の電通が設立した国際スポーツ運営会社においてだ。この運営会社が利権と腐敗の温床トップスポンサー制度を支えた。

 本書から、スポーツを金儲けの手段としか見ないIOCにオリンピックを開催する資格はもはやないことがわかる。懲りることもなく冬季五輪宣伝が始まった今、改めて五輪そのものの廃止に向けた根本的見直しが必要だ。

     (N)
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