2021年12月10日 1702号

【東リ偽装請負事件 高裁勝利判決の意義/企業の言い逃れ許さず「みなし制度」初適用/直接雇用への道 派遣労働者 希望の光に】

 大阪高裁は11月4日、東リ偽装請負事件(注)控訴審判決で原告5人全員の直接雇用と賃金支払いを認めた。判決は非正規雇用問題で画期的な意義を持つ。

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 高裁が原告らと東リの直接雇用を認定した根拠としたのは、労働契約申込みみなし制度(労働者派遣法第40条の6)である。

 この制度は、派遣先企業が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点で、派遣先企業が派遣労働者に対して、派遣会社における労働条件と同一の労働条件で直接雇用の申込みをしたものとみなすとするもの。

 ここでいう違法派遣とは(1)派遣労働者を禁止業務に従事させること(2)無許可または無届出の派遣会社から派遣を受け入れること(3)派遣期間制限に違反して派遣を受け入れること(4)いわゆる偽装請負等―とされる。

 この「みなし制度」は民主党政権時代に自公も巻き込んで改正されたもので2015年10月に施行された。ただし、この法改正には自公が賛成する過程で企業側に有利な次の2点の制約条件が紛れ込んだ。

 まず、派遣先企業が違法派遣だと知らず、かつ、知らなかったことについて過失がなかった場合は「みなし制度」は適用されないとする。「知らなかった」の言い逃れを許すことになる。

 また、制度が適用される「偽装請負等」の場合を「労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的で、請負契約(委託契約)を締結し、偽装請負等の状態となった場合(労働者派遣の役務の提供を受けた場合)」と限定している。つまり、「派遣法等の規定の適用を免れる目的」という主観的要件の立証を必要としたのだ。

実態で偽装請負と認定

 判決はまず「偽装請負」に該当するか否かについて、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(1986年告示第37号)に基づき、東リが日常的かつ継続的に指示や労働時間の管理をしていたとして、偽装請負だと認定した。

 特に「伊丹工場製造課の担当従業員は、工程の製造過程の留意点をまとめた『伝達事項』を作製して東リ従業員であるH常勤主任及びT主任に交付し、これが各作業場の掲示板に掲載された。東リが両主任との間で情報をやり取りし、請負会社の従業員とは直接のやり取りをしていなかったといって、請負会社従業員に指示を行っていなかったことにはならない。むしろ、具体的な作業手順の指示であったと認められる」として東リによる原告らへの指揮命令を認定したことの意味は重大である。

 現在多くの製造業では、工程責任者が請負会社の現場責任者に指示をし請負会社の労働者と直接話していないことをもって、指揮命令しておらず偽装請負ではないと言い逃れている。

 しかし、判決は、請負会社が独自に作業手順を検討・考案していた形跡がないことと合わせて、東リの指揮命令を実質的な状況から認定した。この判断は、はびこる偽装請負を暴く大きな武器となる。

適用逃れ許さぬ判決

 「労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的」という主観的要件についてはどう判断されたか。判決は、「客観的事情から認定される」とし、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者等は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたと推認する」という基準を示したのだ。

 原告5人の契約期間についても、形式的に交付されていた有期労働契約書によらず就労の実態から期間の定めがないと認定した。

 判決は、労働契約申込みみなし制度に基づき直接雇用を認定した初めての事例であり、非正規労働者の希望の光になる。東リは不当にも最高裁へ上告したが、さらに運動を強めて判決確定、5人の職場復帰を勝ち取ろう。

(注)東リ偽装請負事件

 建材メーカー東リ(兵庫県伊丹市)で長年、違法派遣状態におかれた派遣会社L.I.A.の社員が労働組合を結成し、2017年労働契約申込みみなし制度により直接雇用を求めたが、東リは労働組合員5人だけを採用拒否。不採用となった5人が直接雇用を求め提訴した。

 
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