2021年12月10日 1702号

【時代はいま社会主義へ 第11回 資本主義社会とそのイデオロギーの変化(4)−世界的な変革過程が始まっている】

 この連載の前回(第10回)の末尾で、資本主義のグローバル化は、社会主義建設の試みにとって有利な条件をも産み出しつつあることを示唆しました。社会主義建設にとっての最大の障害物は今日、グローバルな金融市場と巨大多国籍企業の動きにあります。この障害物に対処しようとする国際的な試みは、2008年のリーマン・ショック以降に活発になりました。そのことはとくに、以下で紹介する二つの国際的な取組みに当てはまります。

 第一の取組みとして、リーマン・ショック以降にOECD(経済協力開発機構)の内部で検討が始まり、本年10月に136か国・地域によって合意された、国際的な課税原則の見直しが挙げられます。

 この合意の柱の一つは、巨大IT企業を含む多国籍企業の収益にもとづいて課税権を各国に再配分するという、百年ぶりに更新された原則です。これにより、全世界での収益が200億ユーロ(約2.6兆円)を超え、かつ利益率が10%を超える多国籍企業について、物理的な拠点の有無にかかわらず事業活動がなされている国に対し、当該企業の収益の10%を超える分の利益への25%の課税権が再配分されることになります。この新たな原則は、工場などの物理的拠点をもたないせいで課税することのできなかったIT企業に課税したり、租税回避地などを活用した企業の税逃れをある程度まで防いだりすることを可能にします。

 合意のもう一つの柱は、年間7.5億ユーロ(約968億円)を超える収益を得ている多国籍企業について、世界共通で15%の最低法人税率を適用するというものです。OECDに加盟している36か国のうちで15%未満の法人税率を設けているのは、アイルランド(12.5%)、ハンガリー(9%)、スイス(8.5%)だけですから、15%の最低税率では大した効果を発揮しません。とはいえ、多国籍企業を自国へ呼び込むために各国が法人税率を競って引き下げるという「底辺への競争」に一定の歯止めがかかったのは事実です。

 国際的な課税をめぐる第二の取組みは、金融取引税の導入です。金融取引税とは、外国為替や証券などの個々の取引に対し、たとえば0.1%程度の低い税を課すことにより、投機的な取引を抑制することをねらった税制です。この税は現在、フランスやイギリスをはじめとする欧州の9か国、ブラジルやペルーなどの中南米4か国において何らかの仕方で実施されています。しかし、そのように国別に金融取引税を設けても、投機的な資金はこの税制が存在しない国に流入してしまいます。そのため、金融取引税は国際的に導入することで初めて効果をあげます。

 EUは、欧州規模の金融取引税の創設を2011年から検討してきましたが、EUの全加盟国(27か国)の合意を得ることは困難でした。そこでEUはあらためて、ドイツとフランスを含む11ほどの加盟国による2026年の金融取引税導入をめざして模索を続けています。

 上記の二つの取組みは資本主義国の政府によるものであるため、限界を有しています。しかし、コロナ危機のせいで財政支出を拡大しなければならない事態に直面した各国の政府は、新自由主義的な緊縮財政政策の軌道修正を余儀なくされました。そのため、多国籍企業に負担を求める税収源の拡大は、すべての国の政府にとって不可避の課題となっています。グローバル化は、それが産み出す反作用により、社会主義建設のための国際的な条件を副産物として産み出しつつあるのです。  《この項終り》
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