2021年12月17日 1703号

【補正予算でマイナンバーカード促進/狙いは丸ごと監視社会/支援が欲しけりゃ個人情報を出せ】

 岸田政権が2021年度補正予算案に盛り込んだ経済対策の評判がすこぶる悪い。「コロナ困窮者への生活支援ではなく、マイナンバーカードを持たせるための施策になっている」というのだ。支援金が欲しければ個人情報を差し出せという政策の狙いは何か。

コロナ対策は口実

 政府は2021年度補正予算案を臨時国会に提出した。一般会計の歳出総額は約36兆円。そのうち経済対策の関係経費が約31兆6千億円に上る。岸田文雄首相が掲げる「成長と分配の好循環」の具体化のための費用に充てるという。

 岸田首相は「コロナ禍で厳しい影響を受けた方々に寄り添って万全の支援を行うとともに、成長戦略と分配戦略によって、新しい資本主義を起動していくものです」と説明する。しかし、その中身に対して「生活支援になっていない」との批判が相次いでいる。

 とりわけ批判が強いのが、最大2万円分のポイントが付与される新マイナポイント事業である(総額1兆8134億円)。新たにマイナンバーカードを取得すれば最大5000円分、健康保険証としての利用登録で7500円分、さらに預貯金口座と紐付けすれば7500円分のポイントがもらえるというものだ。

 ただし、カードを作っただけで5000円相当のポイントを得られるわけではない。対象となる電子マネーやクレジットカードなどのキャッシュレス決済サービスのいずれか1つをマイナンバーカードに登録する必要がある。その上で、買い物やチャージをすればその25%、最大で5000円分のポイントが還元されるという仕組みなのだ。

 カネを使わなければ何もない。これのどこがコロナで困窮した生活を立て直すための施策なのか(だったら2万円を現金給付せよ、という話だ)。しかも、キャッシュレス決済サービスとの紐づけや、健康保険証、預貯金口座の登録など、個人情報を差し出すことが求められている。

 つまり、政府は「新型コロナ対策」を名目に、マイナンバーに紐づけられる個人情報を飛躍的に増やそうとしているのである。

カネの動きを把握

 「キャッシュレス化の促進自体はいいことだ。便利だし、海外では常識だ」と思われるかもしれない。だがそれは、消費履歴という個人情報が企業や国家に吸い上げられ、自分の知らないところで利活用されることを意味している。

 いつ、どこで、何をいくらで買ったのか。何時何分にどこに移動したのか。趣味や興味・関心は何か。新聞や雑誌、本の購入にどういう傾向があるのか―。カネの動きをたどれば、個人の生活実態や交友関係、思想信条を丸裸にすることが簡単にできる。

 しかも、政府はマイナンバーカードの健康保険証化や預貯金口座との紐付けも狙っている。「給与のデジタル払い」(「○○ペイ」などの電子マネーによる直接入金)解禁に向けた検討も進めている。個人の健康状態や保有資産まで把握しようというわけだ。

 あらゆる個人情報をマイナンバーで連結すれば、瞬時の名寄せ(データマッチング)が可能になる。これはもう私生活の丸ごと監視以外の何ものでもない。その受益者は企業であり、国家である。

究極の管理社会

 対象とする特定の人物に関する様々な情報を名寄せすることで、その人物像をコンピューター上などに仮想的に作り出すことをプロファイリングと言う。参照する情報が多ければ多いほどプロファイリングの精度は高まる。

 プロファイリングによって対象者の将来予測やリスク評価が可能になる。分類や選別、等級化を行い、優遇や排除をすることを通して特定の目的に沿った誘導や制限ができるようになる。効率的に商売をしたい企業にとって、個人情報は「儲けの種」というわけだ。

 国家にとっては、国民管理・統制の切り札となるだろう。官憲による取り締まりという古典的な手法を容易にするだけではない。人びとに権力の論理を内面化させ、自発的に従わせるシステムの構築だ。

 中国では民間企業が提供する信用スコアサービスが広く普及し、行政分野での活用も始まっている。簡単に言うと、対象者に関するあらゆるデータ(ネットの通信や検索履歴も)からその人物の信用度を自動的に算出し、ランク付けする制度である。

 高得点者には優遇措置がある一方、ランク付けの主体である企業や当局に批判的な言動をした者は点数が低くなる。そうすると様々なサービスから排除され、普通の生活すら立ちゆかなくなってしまう。まさに究極の管理社会というほかない。日本政府はこれを目指しているのである。(M)

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