2021年12月24日 1704号

【新型コロナワクチン/3回目追加接種承認、接種対象年齢引き下げ/副反応調査・評価態勢整備が先だ】

 菅前政権が「新型コロナ対策の切り札」として推進してきたワクチン接種を岸田政権も踏襲している。そして、ワクチンの効果が時とともに減衰している可能性があること、新しい変異株「オミクロン株」に対してワクチンの効果が低下するのではないかとの説もある一方で、第3回目追加接種や子どもへの接種拡大の動きが加速している。だが、肝心の安全性評価への取り組みが進んでいない。

評価不能の死亡例99%超

 12月3日の第73回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応部会の資料では、11月26日までに報告された1368件の死亡事例のうち、ワクチンと死亡との因果関係が「否定できないもの」0件、「認められないもの」8件となっている。対して「評価できないもの」1360件で、実に99・4%に上る。

 一方、薬害肝炎の経験から第三者的立場で医薬品行政を監視するため設置された「医薬品等行政評価・監視委員会」(以下、監視委)では、この評価に対して委員から疑問の声がでている。


全数追跡求める専門家

 第3回委員会(3/15)で委員長代理の佐藤嗣道(つぐみち)東京理科大学准教授(医薬品情報学専攻。薬剤疫学、医薬品リスク管理を研究)は、ワクチンの副反応について「ワクチン接種に伴う死亡の発生リスクをどのように評価するのかが重要。(死亡例を)1例1例見ていっても分からない。死亡例に関して比較の群を設けた調査をしない限り因果関係を評価できない」と述べた。厚労省の回答は「なかなか難しい」。

 第4回委員会(6/28)で同委員は「個別の因果関係を問わない接種者と被接種者を比較する体制を取るべき。疫学的な評価をしない限り、きちんと評価できない。前回の委員会で『やるつもりがあるのか、やれる体制があるのか』と聞いたが明確な回答がない。進捗状況を教えてください」と迫った。厚労省は「重要だと思うが膨大な人手が必要で難しい」。

 佐藤委員が指摘した調査は、2020年11月、日本薬剤疫学会、日本疫学会、日本臨床疫学会、日本ワクチン学会が共同声明でその必要性を指摘していたもの。

 声明は「COVID―19(新型コロナ)に対するワクチン被接種者全員を登録、追跡するシステムを構築し、接種記録の共有と接種後の転帰(経過、結果)の確認を可能とすることが必須」とし具体策も提案している。

 学会の指摘から半年、佐藤委員の指摘から3か月経っても厚労省は何ら手を打っていない。できない理由を並べ立てるだけだ。

「評価不能」に批判

 佐藤委員は、因果関係評価についても言及。「PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の専門家はどのようなアルゴリズム(解析手順)を用いているのか」と問うた上で、WHO(世界保健機関)のアルゴリズムを引用して次のように指摘している。

 「WHOのアルゴリズムでは、(1)基礎疾患など医薬品以外の可能性が高いという積極的な判断がされない限りポッシブル(可能性あり)(2)基礎疾患がなく薬以外にはっきりした要因が考えにくい場合にはプロバブル(ほぼ確実)、あるいはディフィニット(疑いもなく確実)だ」と述べる。その上で、WHOのアルゴリズムに従えば「薬剤疫学を専門にし、医薬品の副作用の個別症例の評価をしてきた立場からは、ほとんどの例が評価不能になっていることに相当な疑問を抱く。公表資料に基づけば、プロバブルとまでは言いにくいかもしれないが、ほとんどの例はポッシブルに見える。厚労省の見解の方が、私の専門の立場からすると相当にずれている」とも指摘した。

 副反応の調査方法も評価手法もまったくなっていないと指弾されたも同然だ。

倫理上の問題も

 9月16日の第5回委員会では、副反応報告制度の見直しやワクチンへの非科学的な言説への懸念ともとれる指摘も出てきた。

 佐藤委員は「日本薬剤疫学会理事の個々のもの」と前置きしたうえで複数の意見を紹介した。

 その中には「実際に厚労省に報告されている接種後の死亡例は、ごく一部でしかないということがうかがい知れる。厚労省への報告だけでの評価は限界もあるのでは」との指摘もある。実際、厚労省は、100万回接種あたり副反応疑い死亡例が16・2件と推計する(6/28第4回監視委)。単純計算でも1億人接種で3240件となる。政府の発表では、ワクチン接種率は人口比77・5%となっており、現在の死亡例は厚労省の推計を大きく下回っている。推計が過大なのか、報告数に大きな漏れがあるのかのどちらかだ。

 また「ワクチンの安全性あるいはリスクに関して、誠実に情報を国民に開示していかないと、いつまでたってもデマや憶測が独り歩きする。信頼できる情報をきちんと開示し共通の理解として共有した上で、接種の判断ができるようにならないと、いつまでたっても不信感だけが渦巻いている状況になるのではないか」との懸念を抱く理事もいるという。

 この日の委員会では東北大学大学院の大北全俊(おおきたたけとし)准教授(医学系研究科・医療倫理学分野)が参考人として出席。「個人等に与える損害を最小限に抑える工夫や取り組みがなされているのか」が施策の妥当性を判断する要件のひとつであるとの学説を紹介。「信頼性の確保では、特に安全性の評価とモニタリングが求められる」と指摘した。

 国策としてワクチン接種を進めているのだから、とりわけ命にかかわる副反応については、積極的に調査し真摯に評価することは市民に対する政府の責務だ。だが、菅前政権はそのための体制整備もしないまま、ワクチン接種拡大政策に猪突猛進した。特例承認時の国内臨床試験はファイザー160人、モデルナ200人、アストラゼネカ250人だ。この規模の試験で数万人に1例といった副反応の検出は難しい。大規模試験を経た他の医薬品よりもしっかりとした検出・評価態勢が必要だ。

原因分析と情報開示を

 評価不能では、補償も受けられない。11月時点で政府が予防接種法に基づく健康被害への補償を認めたのは、特例承認時点で既に明らかになっていたアナフィラキシーや急性アレルギー反応のみだ。死亡例の99%が「評価不能」では、安全性への疑念とともに補償の出し渋り≠ニも取られかねない。

 厚生労働省はすでに3回目の追加接種を承認、12月1日から開始された。早ければ来年2月にも接種対象年齢を5歳からに引き下げる。だが、15歳と16歳の死亡例3例がワクチン接種との因果関係ありとの指摘もある(「薬のチェック」10月30日号

 ワクチン接種後のすべての死亡例を正確に報告させ、死亡・重篤例等の原因分析・情報開示とそのための態勢構築、接種による死亡・重篤化を避けるための医療体制整備を政府に要求すべき時だ。

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