2021年12月31日・2022年1月7日 1705号

【介護保険制度は限界/国負担で月10万円 介護労働者の賃上げを】

 2000年に始まった介護保険制度。発足から21年の今、老々介護、介護離職など「介護の社会化」とはほど遠い問題が噴出し、介護労働者不足と低賃金が社会問題化する中、政府も対応を余儀なくされている。

もはや国家詐欺

 介護給付の財源は、国25%、都道府県12・5%、市区町村12・5%、40歳以上が支払う保険料50%だ。

 60歳以上の保険料全国平均は、発足時の2911円から21年4月には6014円と倍増。25年度は7200円となり、以降も上がり続けると試算されている。保険料は生活保護受給者や住民税非課税者からも徴収する。19年度に滞納で差し押さえされた人は2万1578人に達した。滞納が続くと、介護サービスを利用しようにも全額自己負担となり、保険料を払えない困窮者は切り捨てられる。

 制度改定のたびに介護支援が切り下げられ、15年に要支援1、2の人を介護保険の対象から外された。24年の改定時には要介護1、2の介護保険外しや現在無料のケアプラン作成費用の有料化が検討されている。利用者はこれまで受けていた介護支援を受けられなくなってしまう。当初約束した介護支援を反故(ほご)にする「国による詐欺」が行われている。

 高齢化が進む中、国の負担割合が増えなければ保険料引き上げや給付削減が際限なく続く。必要な人に必要な介護支援を提供できず介護保険は破綻する。介護保険制度に代わる全額国庫負担の介護支援制度が求められている。まず、25%の国の負担割合を50%に倍増させよう。

待遇改善も急務

 2040年には、現在より60万人増288万人の介護職員が必要と厚生労働省は試算する。19年度のホームヘルパーの求人倍率は15倍で人手不足も顕著だ。全産業の平均賃金月額37・3万円に対し介護職の平均は28・8万円で月額8・5万円、年間で114万円低い。

 岸田首相は12月6日、所信表明演説で「介護、保育、幼児教育の現場で働く方については、来年2月から年間11万円程度給与を引き上げます」と表明した。月額約9000円であり、ひとけた少ない。2月から9月まで8か月分の引き上げへの予算額は約1000億円だが、補正予算の軍事費や公共事業費追加などをやめ、1・5兆円を支出すれば年間通して月9万円の賃上げがすぐにでも可能となる。

 この賃上げ支給対象事業所は、すでに処遇改善加算を取得しているところに限られ、居宅介護支援事業所などは対象から外される。介護職員の抜本的待遇改善にはならず、人手不足解消にもつながらない。

 さらに、22年9月以降は国が賃上げの原資を負担するとは決めていない(11/26厚労省交渉回答)。介護報酬を賃金引き上げの原資にすれば、利用者の負担増を招く。利用者に身近な小規模事業所では、利用者の負担増を抑えるために賃上げを見送ることもあり得る。全額国負担による大幅賃上げの保障なしには、9000円の引き上げすら絵に描いた餅になる。必要な介護従事者を確保できず、介護保険制度そのものが立ちゆかなくなる。

 介護職の賃金月10万円引き上げを国の負担で実現しなければならない。高齢者、家族、介護労働者の尊厳ある生活を守るための財政支出は待ったなしだ。

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