2021年12月31日・2022年1月7日 1705号

【ルポ 核ごみ最終処分地応募から1年/北海道寿都町は今/「次へは進ませない」/町民6割の民意を信じ】

 2020年8月、片岡春雄町長による高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場への応募表明から1年。21年10月、本紙は初めて北海道寿都(すっつ)町入り。町の今≠追った。(文中敬称略)


町長選と町議補選

 10月26日、投開票された北海道寿都町長選は、応募を決めた現職町長・片岡春雄(72)が反対派で前町議、越前谷由樹(えちぜんやよしき)(70)を破り6選を果たした。一方、越前谷の町議辞職を受けて同時に行われた町議補選では応募反対派、吉野卓寿(たくとし)(31)が推進派、南嶋亘(みなみしまわたる)(74)を破り初当選。反対派の議席を守った。

 この結果、寿都町議会(定数10)の議席構成も反対派4、推進派6で変わらず。すべてが振り出しに戻ったかに見える。

《町長選結果》
片岡春雄(現)1135 越前谷由樹(新)900 (235票差)

《町議補選結果》
吉野卓寿(反対派)1121南嶋亘(推進派)884 (237票差)


問われた初の民意

 20年8月、片岡が突如核ごみ最終処分場候補地への応募を表明後、寿都町民が「民意」を示す機会はこれが初めてだった。片岡町長は、応募後も住民投票を求める町民の要求を拒否し続け、同年10月、町民が地方自治法に基づき、法定数(有権者数の50分の1、約60人)の3・5倍に当たる217筆の署名を添えて直接請求した住民投票条例制定も、翌11月、議会が否決した(議長を除く8人で4対4の可否同数、議長が否決)。町長側は、第3段階の「精密調査」(概要調査後、14年間)移行前にのみ住民投票を行う条例を提案し議会に可決させた。

 これに対し、町議会は21年3月、第1段階の文献調査から第2段階の「概要調査」に移行する段階(応募2年後)でも住民投票を行うことを義務づける条例案を議長提案で提案。可決され、ここでも住民投票が行われることになった。応募からすでに1年経過しており、最初の住民投票は来年秋にも行われる。

争点隠しの町長陣営

 10月21日に町長選が告示されると、町長側はコロナ後の景気対策の他、町営風力発電の誘致やふるさと納税の税収増など過去の実績を強調したものの、自分が応募した核ごみ問題は「争点にならない」「反対したければ住民投票があるので、町政は引き続き任せてほしい」と述べるなど争点隠しに躍起となった。

 町民の7割は核ごみ反対。住民が自分の気持ちに正直に投票するなら勝てる――選挙前は多くの人が楽観的だった。だがそうした甘い見通しは、10月16日に現地入りした瞬間に吹き飛ぶ。「核ごみを受け入れた許せない奴だけど、この町の寂れっぷりを見ると、俺も町長に同情しちゃうよ」。国道に沿って朽ちた廃屋ばかり続くのを見て、筆者と共に寿都入りした岩内町(泊原発現地)在住の支援者の男性がそうつぶやくのを聞いたからである。町内に大きく3つある集落のうち、町役場があり人口も多い本町地区に町長支持派が多いという状況も見えた。情勢の厳しさをこのとき知った。


民意はどこに?

 事情通によれば、越前谷陣営は事前に「900票までは読んだ」としており、結果は票読み通りだったが、逆に言えば浮動票は越前谷にほとんど入らなかったことになる。秘密投票にもかかわらず、誰が誰に投じたか町民のほぼ全員が知っている。寿都のような小さな町では、町長の「肌感覚」も意外に侮(あなど)れない。



 寿都の民意は「応募容認」を意味するのだろうか。町議補選では反対派が勝利している。何よりも片岡自身が6選直後「支持していただけると思っていたが、自信過剰だった」と述べている。「文献調査までは認める」(その後の段階は反対/不明)が町民の6割を占めたとする北海道新聞の調査結果もある。民意は容認ではないとの見方が有力だ。

 驚くのは、町長選が235票差、町議補選が237票差で、結果が逆ながら票の出方がそっくり同じことである。核ごみは反対だが、カネだけは欲しい≠サうした勢力が推進派内に存在することをうかがわせる。推進派も一枚岩ではなく賛否は拮抗している。NUMO(原子力発電環境整備機構)による調査が段階を経て進めば、当然、選挙の構図も結果も大きく変わることは間違いない。


静かになった町で

 町内の障害者施設で秘密投票が確保されておらず「公選法違反の疑いがある」として、11月11日、越前谷陣営が町長選の無効を求める異議申し立てを町選管に行った。12月7日、町選管は訴えを却下した。

 維新が選挙では連勝を続けながら「大阪都構想」住民投票で連敗したように、個別政策の是非を問う住民投票ではしばしば首長選とは異なる判断が示される。「次へは進ませない」とする町民6割の民意を信じ、住民投票勝利につなげることが最も重要だ。

 「核ごみ問題が浮上後、町は急に静かになった」。町民から聞こえるのは町の分断を憂う声だ。一方、「子どもたちに核のごみのない寿都を! 町民の会」の三木信香・共同代表の決意は選挙前から揺るがない。(1)自分は半分よそ者、半分は町に溶け込んだ町民(2)町が分断されないよう対話することが必要(3)自分の美容師の仕事を大事にしつつやりたい――というものだ。

 淀んだ町の空気に染まらないようにしながらも、周囲から遊離しないため、地に足を着け、自分の仕事・生活と運動を両立させる若手女性たちが台頭してきたのは頼もしく気持ちがいい。いつの時代も、新しい社会への扉はこうした人たちが開くのである。

      (水樹平和)
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