2021年12月31日・2022年1月7日 1705号

【未来への責任(338)/大法院判決から3年 植民地犯罪に時効はない】

 呂運澤(ヨウンテク)さんら4名の元徴用工被害者が韓国で新日鉄住金(当時)を訴えた裁判。2012年5月、韓国大法院(小法廷)は「日本の判決は日本の植民地支配を不法とする大韓民国憲法の核心的価値と正面から衝突」するとして高裁に差し戻した。その後2018年10月、大法院(大法廷)は、日韓請求権協定は財産処理のための条約に過ぎず植民地支配の不法性を認めず締結されたもの、不法な植民支配及び侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為による被害者の請求権は消滅していない、として会社に賠償を命じた。

 しかし、判決直後の安倍元首相らの「国際法上ありえない判決」のプロバガンダに忖度(そんたく)した会社は、判決の履行はおろか被害者側との話し合いさえ拒否したため原告らは差し押さえ手続きに進まざるを得なくなった。外国企業への裁判書類の送達は代理人を選定しない限り外務省の管轄となる。大法院判決後、会社が代理人を選定しなかったため書類は直接日本に送達されることになったが、外務省が送達を妨害したため韓国の裁判所は「公示送達」により送達を行なった。そして裁判が進行しだすと会社は代理人を選定したが、今度は裁判所の決定にことごとく「上告」するなど遅延戦術に出てきた。

 こうしたやり取りの結果、日本での強制執行では考えられない3年の月日が経過した。この事態に、ただひとりの生存原告李春植(イチュンシク)さんは「問題が解決されず時間は過ぎていくのに何も変わらないから気になる。裁判をしても何の効力もなく権威もないのかと思うともどかしい」と述べた。

 今年6月、元徴用工被害者・遺族が日本企業16社を訴えた裁判でソウル地裁は、被害者の損害賠償請求権は請求権協定で解決済みであり「国家の安全保障と秩序維持という憲法上の大原則を侵害する」との理由で大法院判決と真逆の判決を下した。8月には三菱マテリアルを訴えた裁判でソウル地裁は、2012年大法院判決から「3年の時効」が経過していることを理由に請求を却下した。

 一方、日本軍「慰安婦」問題をめぐっては1月に戦時性暴力のような国際法上の強行規範(絶対規範)違反にまで「主権免除」を理由に日本政府の責任を免じることはできないとして被害者に賠償を命じた。ところが4月には同様の訴訟で日本政府の「主権免除」を認める真逆の判決。韓国の司法も揺れている。

 しかし、大法院判決や元「慰安婦」被害者への判決に示された「被害者中心主義」に基づき植民地支配下の性暴力や人権侵害の法的責任を認めることは国際人権法の発展、植民地主義克服をめざす国際社会の流れに即したものだ。人権侵害・植民地犯罪に時効はない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

 
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