2021年12月31日・2022年1月7日 1705号

【米軍戦闘機、燃料タンク投棄/住民軽視の背景に地位協定/「軍事最優先」の日米両政府】

 米軍三沢基地(青森県三沢市)に所属するF16戦闘機が先月末、飛行中にトラブルを起こし、燃料タンクを住宅街の近くに投棄した。大惨事につながりかねない重大事故だが、米軍は飛行訓練を早々に再開した。こうした暴挙の背景には、米軍に特権を与えている日米地位協定の存在がある。

民家の近くに落下

 11月30日午後6時すぎ、青森市の青森空港に米軍のF16戦闘機1機が緊急着陸した。この影響で同空港の滑走路は全面閉鎖され、民間機の発着ができない状態となった。米軍側からは機体に近づかないよう要請があったという。

 同機は着陸前に燃料タンク2個を上空から投棄している。米軍側は「エンジンの油圧が下がる警告が表示された。機体を軽くするために人や建物がない場所を狙ってタンクを切り離した」と説明したが、これはウソだ。実際には、民家や役場などが点在する青森県深浦町の国道端にタンクの1個が落下している。



 タンクは道路脇の柵を直撃したとみられ、走行中の車両に被害が出てもおかしくなかった。また、落下場所から最も近い民家まで20メートル余りしか離れていない。住宅街も近い。タンクを切り離すタイミングや角度が少しでもずれていたら、住民を巻き込む大惨事になっていた。

 近くに住む看護師は仕事から帰宅した直後にドーンという音を聞いた。「竜巻のように家が揺れた。我が家に落ちたら死んでいた」。自営業の男性は米軍が投棄場所を「非居住地域」と発表したことに憤る。「われわれは人ではないのか。空から投棄されても仕方のない場所なのか」

 この事故を受け、防衛省は安全が確認されるまでF16の飛行を中止するよう米側に要請した。だが、米軍は投棄から2日後には飛行訓練を再開した。説明は一切ない。見くびられたものだが、岸信夫防衛相は「遺憾の意」を述べるにとどまった。日米両政府とも、住民の生命・安全をないがしろにしている。

危険な訓練の理由

 三沢基地のF16は事故やトラブルをくり返してきた。1985年の配備以来、13機が墜落、模擬爆弾の投棄事故が12回、燃料タンクの投棄は19回に及ぶ。2018年2月には離陸直後にエンジン火災を起こし、燃料タンクを湖に投棄。タンクはシジミ漁をしていた漁船の近くに落下した。

 これほど事故をくり返しても、三沢のF16は危険な低空飛行訓練を日常的に行っている。なぜか。同基地のF16を運用する第35戦闘航空団は、敵防空網の制圧という特殊任務を専門とする部隊だからである。

 敵防空網制圧とは、敵が配備しているレーダーや対空ミサイルの位置を特定し、これらを攻撃・破壊することを指す。この任務を担う攻撃機は敵のレーダーによる探知を避けながら飛行する必要がある。だから海面や地表ギリギリの高さや山陰に隠れるように飛ぶ訓練が不可欠なのだ。

 通常の航空機の場合、そのような低空飛行は禁止されている。航空法によって、人口密集地では最も高い障害物上空から300メートル、人家のない地域や水面上空の場合は150メートルという「最低安全高度」が定められている。

 ところが、日米地位協定にもとづく特例法により、米軍機には航空法が適用されないことになっている。よって米軍は、自国では法律的に行うことができない危険な低空飛行を日本では思う存分できるのだ。

伊・独とは大違い

 今回、機体トラブルを起こしたF16は青森空港に5日間とどまっていたが、青森県警は現場検証一つできなかった。基地の外であっても日本の警察権が及ばないからだ。

 「主権国家でそんなことはあり得ない」と思われるかもしれないが、これは事実である。基地の外でも米軍の財産に関して捜索、差し押さえ、検証を行う権利を放棄するという取り決めを、日本政府は地位協定の合意議事録というかたちで結んでいるのだ。

 まさに現代の治外法権というほかない。こんなことを許している国は日本だけだ。イタリアの場合、駐留米軍基地の管理権はイタリア側にある。駐留米軍のすべての訓練及び作戦行動は、イタリアの法規を遵守しなければならない。

 ドイツでは米軍機墜落事故を契機に協定の改定を求める世論が高まり、基地の中でも外でも、駐留米軍には原則としてドイツの法律が適用されるようになった(1993年)。これにより、米軍による低空飛行訓練は回数・時間ともに厳しく制限されるようになり、協定改定前と比べて大幅に減ったという。

進む軍事一体化

 日本はどうか。政府に地位協定を見直すとの発想はみじんもない。日本全国を訓練場にして、対中国を意識した日米合同の軍事演習をくり広げている。

 12月4日から17日にかけて、陸上自衛隊と米海兵隊による日米共同訓練「レゾリュート・ドラゴン21」が東北3県と北海道で行われた。陸自と海兵隊合わせて約4千人が参加する最大規模の訓練で、「台湾有事」や南西諸島の「離島防衛」を想定したものだ。

 たとえば、陸自の地対艦誘導弾部隊が敵艦艇を砲撃する一方、海兵隊が高機動ロケット砲システム(沖縄の嘉手納基地から空輸)を使い、上陸した敵に攻撃する想定での訓練が行われた。機動展開前進基地作戦という海兵隊の新たな作戦構想を踏まえ、日米連携の向上を図るための訓練だ。

 日米軍事一体化を進める日本政府にしてみれば、今回のF16事故は想定内の出来事でしかない。事故は訓練につきものであり、「軍事優先の何が悪い」と思っているのである。 (M)

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