2022年04月15日 1719号

【読書室/コロナ禍からみる日本の社会保障 危機対応と政策課題/伊藤周平著/自治体研究社 2000円(税込2200)円/生存権が自分ごととなった】

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、2年以上を経過した現在も収束からはほど遠い。その過程で、「自宅放置」や「命の選別」という医療崩壊=Aまた、介護事業者の倒産や介護サービス基盤の危機という介護崩壊≠ネど生存権が脅かされる事態が引き起こされた。それは、日本の社会保障の弱点を露呈させている。この状態をつくりだしたのは、自公政権の新自由主義政策である。

 本書の第1章は、医療費の抑制を軸とする医療・保健政策によって医療崩壊と保健所の機能不全を生み出してしまったことを指摘するとともに課題を示す。

 第2章は、新型コロナが介護崩壊を起こし、その要因に給付抑制策があることを明らかにする。さらに、保険方式ではなく税方式へ移行することを提言する。

 第3章で保育・学童、第4章で雇用、第5章で生活保護・住宅政策、第6章で社会保障の財政について現状と課題を探る。

 終章では、新型コロナ後の社会保障の法政策と税制について方向性を示す。

 社会保障についての理解は当事者や関係者に限られたものになっており、その枠をなかなか超えることができなかった。ところが、新型コロナによって、医療や介護、貧困・格差という生存権の危機的事態を、多くの市民が自分事として受けとめる素地がつくられたのではないか。それほど深刻な状態が生まれたのであり、これまでになく多くの人が声をあげはじめた。

 社会保障の基本は公的責任で生存権=命とくらしを守ることだ。今その拡充を求める声をさらに大きくすれば改善の道が開けるはずだ。本書はこうした呼びかけの書でもある。(I)
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