2022年04月22日 1720号

【経済安全保障法案の危険な狙い/軍需産業育成への制度づくり】

 経済安全保障法案が衆院内閣委で審議入後わずか2週間で本会議を通過した(4/7)。議論らしい議論もなく、法案の問題点は明らかにされないままだ。「経済活動の制約となる」と修正案を出した立憲民主党も「事業者の自主性尊重」などの附帯決議で賛成に回った。だが、この法案の危険性は企業の国家統制だけにあるのではない。法案は軍事技術開発に拍車をかける体制作りに主眼があるのだ。具体的に見よう。

政府がコントール

 法案の名称は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」案。その目的は、(1)特定重要物資の安定的供給確保(2)特定社会基盤の安定的な供給確保(3)特定重要技術の開発支援(4)特許出願の非公開、以上4点の制度創設にある。

 (1)特定重要物資の安定供給。「コロナ禍でマスク不足に陥った」(小林鷹之経済安全保障担当大臣)との事例をあげ、あたかも市民生活の安全のための「重要物質確保」を想起させる。だが、特定重要物質とは、たとえば半導体の製造に不可欠なレアメタルだ。デジタルが汎用化した現在、半導体がなければ自動車さえ生産できなくなっている。

 法案では、政府が関連業界に補助金や基金などの形で資金援助する仕組みをつくる。しかし、石油と同じように地下資源は埋蔵国が限定されている。新たな調達先を確保することや代替品を開発することなど容易ではない。

 業界への資金援助は、政府がとる他国への経済制裁への「協力」を業界が受け入れやすくするためのものだ。ロシアからの石油・天然ガス輸入規制を想定すればよくわかる。

 (2)は電気、石油から金融、クレジットまで基幹インフラ14分野の事業者に海外依存させないよう政府が審査する。国家の監視下に置くことを公然と掲げた。

産官学の一体化

 (3)特定重要技術とは「(海外からの)不当な利用や妨害が国家の安全を損なう事態を生じる先端技術」と定義しているが、軍事技術に他ならない。この先端技術の研究開発を政府が支援すると明記した。政府の基本指針をもとに官民協議会をつくり資金援助を行う。

 ベースには産官学連携の研究開発を促す「科学技術・イノベーション活性化法」がある。その対象研究から特定重要技術を抽出し、さらに税金を投入する。

 すでに2015年、防衛省が安全保障技術研究推進制度を発足させ、年間100億円の規模にまで予算を確保している。経済安保法案は政府が全面的に軍需産業を保護育成することに根拠を与えるものだ。

 (4)特許非公開の狙いは核技術や最新兵器技術の秘匿とともに、「安全保障上の観点から特許出願を諦めざるを得なかった発明者に特許法上の権利を受ける途を開く」(政府概要版)ことにある。軍事研究分野への誘導策なのである。

 「経済活動の規制」を受ける企業側の反応はどうか。「経済安保」への提言をまとめた経団連は法案支持を表明(2/9)。「アカデミアが経済安全保障の強化推進のための先端重要技術に関するプロジェクトの意義を適正に理解・評価する環境を醸成することが必要である」と述べ「国の安全保障上の具体的なニーズが産学との間で共有されることを期待する」と大学に軍事研究への障壁を取り除くよう注文している。

 結局、法案は情報を国家の監視下に置くことで、軍事研究開発を促進する体制をつくるためのものなのだ。

内閣一任法案

 この法案のつくり自体が軍事国家像をよく表している。

 第1条の目的から「国家及び国民の安全」など「国家」の表現が22か所ある。「経済安全保障」は「国家の安全」のためであるということだ。「国家」が安全なら「国民」も安全だと言いたいのだろうが、決してそうはならない。「国家」のために「市民」が犠牲になる事例は数多い。ウクライナ戦争はまさに「国家」と市民の安全は別物であることを示している。「経済安全保障」の考え方自体、敵対国を想定した戦時モード全開といえる。

 また法案は、138の項目が政令・省令に委ねられている。国会の審議を不要とする内閣への白紙委任事項だ。

 国家安全保障局に経済班を設置したのは20年4月だった。安倍、菅、岸田政権を貫く戦争国家づくりはいよいよ自前の軍産複合体づくりに踏み出したといえる。

 経済安保法案のとりまとめ役だった藤井敏彦。国家安全保障局審議官(経済班)、防衛装備庁官房審議官も歴任。兼業違反などを問われ停職処分。3月9日辞職。法案審議への影響配慮か。
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