2022年06月10日 1726号

【「台湾有事」に軍事介入示唆/バイデン発言を喜ぶ自民/戦場になる沖縄は眼中になし】

 バイデン米大統領の就任後初となるアジア歴訪のハイライトは、「台湾有事」への米国としての軍事介入発言だった。自民党や右派メディアからは発言を歓迎する声が相次いでいる。米中激突となれば戦火にさらされることになる沖縄・南西諸島住民のことなど頭の隅にもないらしい。

岸田は軍拡を約束

 バイデン大統領は5月23日、日米首脳会談後の共同記者会見で、中国が台湾に侵攻した際に米国が台湾防衛に軍事的に関与するかを問われ、「イエス。それが我々の誓約(コミットメント)だ」と答えた。歴代の米政権が維持してきた台湾防衛の意思を明確にしない「あいまい戦略」からの転換を示唆したとして、波紋を広げている。

 自民党の会合ではバイデン発言を歓迎する声が相次いだ。佐藤正久外交部会長は「大統領の本音が出た極めて良い失言だ」と評価。「バイデン氏がここまで発言した以上、中国の武力による台湾統一、尖閣(諸島)有事に備え、日本自身が外交防衛力をさらに強化することが極めて大事だ」と強調した(5/24)。

 「台湾有事は日本有事」が持論の安倍晋三前首相も「ロシアの侵略のような状況が(台湾に対して)あれば、(米国は)介入するんだということを明確にしたのだろう」との見方を示し、発言を歓迎した(5/26)。

 岸田文雄首相は「日米の立場は従来と変わっていない」との認識を示したものの、日米首脳会談では「ミサイルの脅威に対する『反撃能力』を含め、あらゆる選択肢を検討する」と言明している。これが「台湾有事」を大義名分とした軍拡実行の約束であることは言うまでもない。

 こうした反応をみていると、日本の政治家たちの劣化はここまできたかと愕然とする。戦争に巻き込まれ多大な被害をこうむるであろう住民のことは彼らの眼中にないようだ。

 「台湾有事」に米国が軍事介入した際には、日本が集団的自衛権を行使して参戦することは確実だ。それは日米の軍事要塞化が進む沖縄・南西諸島が「標的の島」となり、再び戦場と化すことを意味している。


標的にされる島々

 昨年12月、自衛隊と米軍が「台湾有事」を想定した新たな日米共同作戦計画の原案を策定したことが共同通信のスクープで明らかになった。有事の初動段階で、米海兵隊が鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置くとしており、住民が戦闘に巻き込まれることは必至だ。

 拠点の候補は、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、配備予定の石垣島を含む約40か所。近年、日本政府は「離島防衛」を名目に九州・琉球列島に次々と自衛隊基地・部隊を新設し、米軍との基地共同利用や共同訓練を行ってきた。それらが中国軍の封じ込め作戦を担わされるのである。

 具体的には、南西諸島の島々に攻撃拠点(車載式ミサイルの発射部隊など)を分散させ、機動的に戦うという。沖縄選出の伊波洋一参議院議員は「米軍は大部隊を投入しない。中国のミサイル攻撃を想定し、在日米軍の主要部隊はハワイや米本土に撤退する」と分析する。矢面に立つのは自衛隊ということだ。

 当然、自衛隊基地がある島は中国軍の攻撃対象となる。そこで暮らす人びとはどうなるのか。自衛隊制服組幹部は「申し訳ないが、自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」(2021年12月24日付沖縄タイムス)と述べている。とはいえ沖縄・南西諸島全体が戦場になるのだから、実効性のある避難計画など立てようがない。

「軍民一体」の悪夢

 さらに恐ろしい事態が待ち構えている。軍事作戦への動員要請だ。防衛省は南西諸島への自衛隊と米軍の大規模な部隊展開には、民間空港や民間港湾の利用が不可欠とみて、近く日米両国で現地調査を実施する方針を固めた。部隊の移動、武器・弾薬・燃料・食糧の輸送には民間業者の協力が欠かせないというのだ。

 部隊移動や物資輸送のために艦船や航空機が投入され、住民はますます避難する手段を失う。逃げ場のない島で「軍民一体の戦闘協力」を強いられる―。これはもう、県民の4人に1人が命を失った沖縄戦の再来ではないか。

 市民団体「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」は5月27日、バイデン発言に抗議し撤回を求める声明を発表した。声明は「沖縄県民は、『台湾有事』で沖縄が日米中の戦場となることを拒否します」として、南西諸島の軍備強化や攻撃作戦計画などを中止するよう、日米両政府に求めている。

 軍隊は戦争を引き寄せ、住民を守らない。それが沖縄戦の教訓だ。  (M)
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