2022年07月15日 1731号

【G7、NATO 対中露敵対構図 鮮明/岸田首相 アジアでの軍事同盟強化担う/分断・緊張激化許さぬ国際連帯を】

 主要7か国首脳会議(G7サミット)、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が6月末に連続して開催された。両会議が鮮明にうち出したのはロシア、中国との経済的、軍事的敵対構図だ。各国政府は、コロナ禍やウクライナ戦争による経済の低迷を、分断と軍事緊張をあおることで乗りきろうとしている。だが、目先を変えるだけの政策に市民の反発は避けられない。新自由主義政策の転換には政権交代が最も有効な道だ。

「すべてロシアが悪い」

 今年のG7サミット(6/26〜6/28)はロシアに対する経済制裁強化と中国をけん制するインフラ投資額の合意がすべてといってよい。

 原油や小麦などの価格上昇による途上国の困窮についてG7では「ロシアの侵略戦争が飢餓の危機を劇的に悪化させている」(声明)とロシアの責任を強調した。だが、すべてをロシアのせいにすることなどできない。

 「食糧危機」は供給量不足の問題ではない。ロシア、ウクライナからの輸出が減っても、世界の供給量が激減しているわけではない。世界の小麦輸出国上位15か国のうち10か国がNATO加盟国だ。食糧危機はロシア憎悪を煽る材料に過ぎない。

 世界一の小麦輸出国米国。農家は慢性的過剰生産にあえいでいる。バイデン米大統領は、ウクライナ軍事支援とセットで農家支援の予算を付け、販路拡大に力を入れている。G7の決めた途上国への食糧支援策45億jの半分以上を米政府が拠出する。米国の国内対策としても有効ということだ。

 G7は、ロシア産金の輸入禁止やロシア産原油の取引価格上限設定など追加制裁策をまとめたが、あくまで米国主導。米政府が事前に記者団にリークし後退を許さなかった(6/29毎日)。

 経済制裁によるロシア経済への打撃は限られている。プーチン大統領は「欧米によるロシア経済の破壊は失敗した」(6/18)と発言。原油取引で増収となっているところを見れば、強がりではなさそうだ。

 バイデンが必要なのは、G7が結束して中露に敵対するその構図なのだ。前回の提案ながら、中国の経済圏構想「一帯一路」への対抗策6000億jの拠出も欠かせなかった。

初めて「対中国」明記

 G7に続いて開催されたNATO首脳会議(6/28〜6/30)でも対中露敵対構図を鮮明にした。

 NATOは今後約10年間の行動指針「戦略概念」を更新。ロシアを「最大かつ直接的な脅威」と位置づけ直した。フィンランド、スウェーデンの加盟が進めば、ロシアへの軍事圧力は明らかに高まる。

 北欧2か国の加盟はバイデンがロシア侵攻以前の昨年12月から仕掛けたものだ(6/30毎日)。2か国の加盟に難色を示したトルコを説得したのもバイデンだった。

 バイデンはNATO強化にむけ欧州駐留米軍の新体制を発表。ポーランドに軍司令部を設置し、「NATO東部で初めてとなる米軍の常駐」体制を敷く。NATOは即応部隊4万人を30万人超に拡大する。

 注目すべきは「戦略概念」に今回初めて中国への対応が明記されたことだ。「中国の野心的で威圧的な政策がわれわれの利益や安全、価値観に挑戦している」

 NATOは北大西洋からアジア・インド洋にまで軍事同盟の範囲を拡げたことになる。その中心的役割を担っているのが岸田文雄首相だ。NATO非加盟国である日本の岸田が「パートナー国」として初めて首脳会談に参加した政治的役割は極めて大きい。

 岸田は「ウクライナは明日の東アジア」「5年以内に抜本的強化」と大軍拡を宣言。他の「パートナー国」である韓国・オーストラリア・ニュージーランドと初の4首脳会談を開催し、4年9か月ぶりの日米韓首脳会談に臨んだ。いずれもアジア版NATOへの結束をはかったといえる。

政権揺るがす選挙結果

 だが、世界を分断し軍事緊張を高めることで政権を維持しようとする企ては、どの政府も成功していない。

 バイデンの支持率は昨年8月以降50%を切り、いまや36%と過去最低を記録している(6/22ロイター)。物価高に対する無策ぶりが支持されない最大の要因となっている。ロシア侵攻に対抗する「強い政権」を演出しようにも、経済制裁が招いた物価高により政権批判が高まっているのだ。

 フランスでは6月の総選挙(定数577)で与党「共和国前進」が過半数割れとなった。与党連合は350議席から246議席へと100議席以上減らした。「不服従のフランス」や社会党、環境政党、共産党など左派連合(環境・社会 新民衆連合)が142議席で最大野党となった。

 物価高、エネルギー高騰への不満が与党敗北の要因だ。ロシア経済制裁やウクライナ支援を進めてきたマクロン政権への批判票であることは間違いない。

 英国では5月の統一地方選挙で与党が大敗している。イングランドとスコットランド、ウェールズで200の自治体選挙があった(5/5)。ロンドン主要区の議会では、与党保守党から労働党が議席を奪い過半数となった。保守党は500近い議席を失った。

 要因はコロナ対策ロックダウン期間中の官邸パーティにジョンソン首相が参加していた事件だと言われている。だが、EU離脱による経済ダメージもあり、40年ぶりに9・1%の物価高に見舞われている。バイデンと共同歩調をとるNATO強化策が政権の支持率を上げることはなかった。

 反中露か否かに世界を分断し、軍事緊張を高め政権を維持しようとする企みは決して成功しない。ロシア経済制裁に加わっている国は国連加盟国の4分の1に満たない。中東・アフリカからは1か国もない。

 ウクライナ戦争を終結させるには戦争拡大政策を止める必要がある。各国政府のウクライナ軍事支援、ロシア経済制裁をやめさせる国際的連帯行動が求められている。

諦め≠はね返そう

 日本では、参議院選挙のただなかで、与党はウクライナ戦争を利用し軍事費拡大、軍事同盟強化をうち出している。軍事優先は医療や教育、社会福祉を後退させることは明らかだ。だが、物価高対策に無策であるにもかかわらず、欧米のように政権批判が世論調査に容易には表れない。

 そこには諦め感≠ェあるのは否定できない。その大きな要因の一つに労働組合運動の衰退がある。むき出しの搾取にさらされる非正規労働者。権利を守るすべがない。最大のナショナルセンター連合は労働者の権利擁護や賃上げの闘いを放棄するばかりか、立憲野党の分断を画策し、グローバル資本の代弁者である自民党に秋波さえ送っている。

 自公政権の政策が支持されているわけではない。にもかかわらず政権批判票が増えないのは、政権交代に対する否定的キャンペーンが影響している。政策は変えてほしいが、託せる政党がない―との刷り込みが浸透している。軍拡、新自由主義に対抗する政策を掲げ、実現を迫る労働者、市民の共闘を地域から作り出すことが変革の展望である。



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