2022年07月15日 1731号

【東リ偽装請負裁判 最高裁勝利の画期的意義 派遣労働者の雇用へ展望】

最高裁が会社上告を棄却

 最高裁判所は、東リ伊丹工場において偽装請負状態で就労していた労働者5人と同社との間の労働契約関係を認めた大阪高等裁判所判決に関して6月7日、東リ株式会社の上告を棄却し、上告審として受理しない旨を決定した。同日をもって大阪高裁判決は確定した。

 東リは、伊丹工場(兵庫県)で、主力製品の巾木(はばき)(床と壁の繋ぎ目に使用される建材)を製造する巾木工程と接着剤を製造する化成品工程で、1990年代後半頃から原告ら労働者を偽装請負で就労させてきた。

 2015年夏に原告ら労働者は労働組合を結成し、17年3月、組合員のうち執行部を中心に有志(原告ら)が先行して労働者派遣法第40条の6(直接雇用の申込みみなし規定)に基づく承諾通知を東リに送付、同社に対し直接雇用に関する団体交渉を申し入れた。

 同月、東リは、当時原告ら労働者を供給していた偽装請負会社に見切りをつけ新しく用意した派遣会社(株式会社シグマテック)に労働者の雇用を引き継がせる手続き中であった。

 この移籍の過程で、新派遣会社が組合員だけを採用拒否する事件が起きた。3月下旬、新派遣会社から各労働者に最終的な採用通知が送られる直前に、東リへ承諾通知を送った組合の中心メンバー5人を残して、16人いた組合員のうち11人が一斉に脱退。非組合員と組合脱退者は全員が新派遣会社から採用通知を受ける一方、組合に残った5人は全員が不採用通知を受けた。偽装請負という不正義をただすため行動をした原告ら5人は、そのために17年3月末に東リ伊丹工場から放逐されたのである。

 原告らは17年11月21日、東リに対し派遣法第40条の6に基づく地位確認等を請求する訴訟を神戸地裁に提起した。神戸地裁は20年3月13日、原告らの就労実態は偽装請負ではなかったなどとして請求棄却の不当判決を言い渡した。

 しかし、21年11月4日、大阪高裁は、神戸地裁の誤りを正して一審判決を取り消し原告全員について東リとの労働契約関係を認めた。

断罪された偽装請負

 大阪高裁は、偽装請負に該当するか否かの判断にあたっては、労働者派遣が労務提供を目的とした契約でなく請負事業者して独立性専門性を備えているかという点を厳格に判断し、厚生労働省が作成した「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)を参照して、東リが、日常的かつ継続的に、原告らに対し、伊丹工場の他工程の従業員らと同様に指示や労働時間の管理等をする偽装請負を行っていたと認定した。

 また、派遣先に派遣法等の規定(規制)の適用を免れる目的があったか否かの判断では、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認する」との基準を示し、主観的要件(派遣先の「派遣法等の規定を免れる目的」)は客観的事情から認定されることを示した。

行政に救済求める

 大阪高裁の判断は、違法派遣、とりわけ労働者派遣の実態があるにもかかわらず請負その他労働者派遣以外の名目で就労させて雇用責任を免れようとする事業者の責任を見逃さず、派遣法第40条の6の趣旨である労働者の雇用の安定を保障する積極的なものであった。

 製造業・IT業界には同様の偽装請負状態で働く百万人を超える労働者が存在している。この高裁判決が確定したことは、偽装請負・違法派遣の認定・指導にきわめて消極的な立場をとってきた行政(労働局等)に対し、その姿勢を改め労働者を救済する措置を講じることを強く求めている。

 組合結成以来7年間の原告らの不屈の闘いに敬意を表し、職場復帰、その後の労働条件改善の闘いを進めるとともに、この勝利判決を力に非正規労働者の雇用の安定を求める闘いをいっそう広げていく。

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