2022年07月15日 1731号

【内閣支持率低下でも「与党優勢」の予測/政策では不人気の自民がなぜ/「野党嫌い」による消極的選択】

 今回の参院選の情勢分析で、メディアは終始「自民、圧勝の勢い」「与党で改選過半数を大幅に上回る」と報じてきた。物価高の影響などで、岸田内閣の支持率は下落傾向にある。自民党の政策が支持されているわけでもない。ではなぜ、選挙になると「自民優勢」になってしまうのか。

物価高批判は強いが

 報道各社の世論調査をみると、岸田内閣の支持率は軒並み下落している。

 NHK調査(6/24〜6/26実施)の場合、「支持する」は2週間前から9ポイント下がり50%となった。「支持しない」は4ポイント増えて27%だった。また、「野党の議席が増えたほうがよい」との回答(28%)が、「与党の議席が増えたほうがよい」(24%)をわずかだが上回った。

 毎日新聞の調査(6/25〜6/26実施)では、支持率は5割を切って41%。5月21日実施の調査から12ポイントも急落した。読売新聞の調査(6/22〜6/23実施)でも、前回より7ポイントほど下がっている(57%)。

 背景にあるのは、昨今の物価高騰に対する市民の不満だ。読売新聞の調査によると、政府の物価高への対応を「評価しない」は71%で、「評価する」20%を大きく上回った。支持政党別でみると、野党支持層が84%、無党派層は79%、与党支持層でも61%が「評価しない」と答えている。

 ところが「評価しない」派に参院選の比例選投票先を聞くと、自民党が最多の32%を占め、日本維新の会11%や立憲民主党の9%などに大差をつけた。物価高による家計の負担を「感じている」と答えた人(全体の83%)でも、投票先は自民36%、維新10%、立憲8%などの順だった。

 では、物価対策以外の政策で支持されているのかというと、そうではない。「読売」の最新調査(7/1〜7/3実施)によると、投票先を選ぶ際に最も重視する政策のトップはやはり「景気や物価対策」だった(37%)。自民党が最重要視する「外交や安全保障」は14%、「憲法改正」に至っては6%にすぎない。

政策で決めていない

 このように岸田政権や自民党への批判は高まっている。それが投票行動に結びつかず、事前予測では「自民圧勝の勢い」になるのはどうしてなのか。

 ある調査を紹介しよう。米ダートマス大学政治学部の堀内勇作教授らのチームがマーケティングで使われる統計分析手法「コンジョイント分析」を用いて実施した調査である。対象となったのは2021年の衆院選。諸政党が提示した政策が有権者の投票行動にどのように関係したかを検証した(『日経ビジネス』2021年12月27日号)。

 結論から言うと、自民党の政策は大して支持されていない。政党名を伏せて聞いた場合、自民党の政策が一番不人気ということもある(「原発・エネルギー」や「多様性・共生社会」)。「経済政策」への評価も公明党に次いで低い。ちなみに「経済政策」の一番人気は共産党の政策だった。

 ところが、どの分野のどんな政策でも「自民党の政策」として提示されると支持が大幅に増えている。「自民党」のラベルを貼るだけで、選ばれる率が跳ね上がるということだ。

 こうした結果から次の仮説が導き出される。自民党は政策で選ばれているのではない。ただ何となく自民党に投票している人がかなりの数でいる。そもそも有権者の大半は、各党の政策を吟味して投票先を判断しているのではない―。

 なるほど、メディアの候補者アンケートに対し「無回答」を連発する生稲晃子(自民新人・東京選挙区)のような人物の当選が有力視されるわけだ。

メディアの印象操作

 最大多数を占める無党派層の判断基準が政策ではないのだとしたら、考えられるのは政党が持つイメージだ。自民党の印象はよくないが、野党側はそれを上回るマイナスイメージを抱かれている。「野党は頼りない。だらしない。任せられない」というやつだ。

 そう、自民党は有権者の野党忌避感情に助けられ、消極的な選択を得ているのである。自民党への投票に結びつかなくても棄権に回ってくれれば、強固な組織票を持つ自公が優位に立つ。簡単なことだ。

 なぜ「野党はダメ」のイメージがここまで広がってしまったのか。野党側の自滅(共闘路線の解体、自民へのすり寄り)など様々な要因があるが、マスメディアによる印象操作が大きく影響している。最近の事例で言えば、内閣不信任決議案をめぐる報道がそうだ。内容はそっちのけで、野党の「迷走」を冷笑する報道ばかりが目立った。

 政策面では不人気の自民党が長期支配を続けているのは民主主義の空洞化を意味する。何としても食い止めねばならない。 (M)

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