2022年07月22日 1732号

【ドクター コロナ用「飲む薬」モルヌピラビルの「毒」検証を】

 昨年10月、巨大製薬企業メルク社は、臨床実験でコロナ用「飲む薬」モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)が「入院又は死亡を5割減らした」と大々的に発表しました。しかし、その後これは当初計画の約半分385人分の結果で、後半も含めた709人では「3割減らした」と修正しました。

 変だと思い、後半の324人だけの「効果」を調べてみると、なんとこの「薬」は「入院又は死亡」を3割も増やして≠「たのです。試験の前半では「薬」、後半では「毒」になっていたわけですから、より詳しい検討が必要です。しかし、コロナのどさくさで手抜きされた緊急的承認で、12月23日アメリカ、翌日に日本で「特例認可」されました。医学雑誌世界No.1とされる「ニューイングランド・J・メディシン(MEJM)」誌の論文も「効果あり」としていました。コロナの下で医学、特に薬剤評価の科学性がひどく低下した象徴的な例です。

 他方、「4大医学雑誌」の一つイギリス医師会雑誌BMJは大変違います。今年1月には、現在と前の編集長・副編集長が連名で、コロナワクチンや治療薬は科学的根拠に疑問、コロナは医学を著しく後退させた、科学性を取り戻すことが必要、と呼びかけています。

 私は3月8日次のような文章をBMJに送りました。「モルヌピラビルの試験では、効果があったとするデータと毒になったとするデータを単純にひっつけているが、これは臨床研究として基本的に間違いであり、ラゲブリオを飲む人により毒になることもあり得るので、研究の生データの公開による検討が必要である」

 BMJには、3月3日に「モルヌピラビルの認可は時期尚早だった」、4月13日に「新型コロナ:抗ウイルス剤モルヌピラビルの根拠は?」(=根拠に乏しい)との批判論文が出され、後者に私の意見が引用されました。4月26日には、私と医薬品評価の第一人者浜六郎氏のこの問題に関するBMJへの「手紙」が正式な文章として、別個に掲載されました。日本では、共同通信がこれらのBMJの批判的論文を浜氏の解説付きで記事にしています。

 メルク社をはじめ世界の巨大製薬企業はこれらの動きを気にしているはずです。コロナで後退した薬剤評価を改善する世界的な動きに参加し、微力でも巨大製薬企業の医学破壊に対抗したいと考えています。

(筆者は小児科医)
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