2022年07月29日 1733号

【沖縄辺野古 国の不当な関与を審査せず/国地方係争処理委は公正中立な判断を】

 辺野古新基地建設をめぐり、国地方係争処理委員会(係争委)は7月12日、沖縄県が5月9日に申し出た審査を却下した。もう1件、5月30日付け審査申出についても8月中に判断を示す。国と地方自治体の対等な関係を保障するため、国の不当な関与をただすべき立場にある係争委だが、国策に沿った判断しかしない姿を改めてさらした。

政府の焦り反映

 経過を確認しておこう。

 沖縄防衛局が公有水面埋立法(公水法)による変更承認を沖縄県に提出したのは2020年4月。玉城デニー知事は1年半の審査を経て21年11月、不承認とした。沖縄防衛局はすぐ国土交通大臣に行政不服審査法(行審法)の審査請求を行った。

 変更承認申請から2年が過ぎようとする4月8日、国交大臣は県の不承認取消裁決と同時に、地方自治法(地自法)を根拠に「4月20日までに承認せよ」と是正勧告する強硬策に出た。

 県は期日とされた4月20日に、「裁決内容を精査するので、是正は間に合わない」と回答したところ、国交大臣は4月28日、今度は「5月16日」を期限とする是正指示を送りつけてきた。一刻も早く承認させたい政府の焦りが見てとれる。

 県は国交大臣が行った2回の処分(4/8、4/28)に対し、5月9日と5月30日、係争委に審査を申し出た。

 県の主張をみよう。1件目の審査申出では、国交大臣の裁決は沖縄防衛局の不適法な行審法利用に基づくもので無効、仮に有効としても国交大臣は沖縄防衛局と利害を一致するため公正、中立であるべき審査庁とはなれないから、不当な国の関与であり、取り消されるべきと訴えている。

自作自演の裁決

 沖縄防衛局の行審法悪用、いわゆる「私人なりすまし」を20年3月最高裁判決は認めてしまっている。国交大臣はこの判決を使い正当化しているが、これに対し県はあらためてその判断枠組みの不備を問題にした。

 最高裁判決は一言でいえば、公水法手続きで私人が受ける「免許」も国が受ける「承認」も同じ基準が適用されるのだから、「国」固有の立場にはないというものだ。しかし、埋め立て造成地の所有権設定など私人と国とでは扱いが大きく異なる。承認基準だけ取り出して「同じ」とするのは不合理だと主張した。

 県は続けて、仮に行審法適用を認めたとしても、案件を審査するものは公正中立でなければならないと指摘。辺野古埋め立ては閣議決定であり、防衛大臣も国交大臣も賛成した立場。つまり、沖縄防衛局と一心同体である国交大臣が「公正・中立」であるはずがない。

 審査を申し出た者と審査する者が一体である以上、結論は見えている。国による自作自演の茶番劇なのだ。だが、係争委は地自法第245条3項ただし書き(審査請求に対する裁決は除く)を根拠に「審査の対象となる国の関与はない」と判断を示さず、却下した。


権力濫用は明白

 県は2件目の審査申出で、国交大臣のもう一つの顔について批判している。国は、公水法埋立事業者(沖縄防衛局)と行審法審査庁(国交大臣)の他に地自法の関与庁(国交大臣)の3つの立場を一体化して権力の濫用を行ったと指摘した。審査庁ではできない「是正勧告」を公水法所管大臣の立場にすり替わり、不当に「関与」したと咎(とが)めている。

 まして「是正指導」は、県が国交大臣の裁決の内容を検証している間に「承認」を迫った。地方自治体の「自主性及び自立性に配慮」すべき関与の基本原則を踏みにじる不当なものだ。

 2件目は「審査請求に対する裁決」ではないから、係争委は却下できないはずだ。

 争点は明確だ。軟弱地盤対策工事の実現可能性も示せず、当初の工事期間の3倍も費やし、工事費は4倍になる変更を県は認めなかった。「普天間基地の早期の危険除去」という埋め立て目的に到底そぐわないからだ。国交大臣は、埋め立ての名目さえ成り立たないにもかかわらず、一般私人であれば当然守らせる公害防止や環境保全の基準を沖縄防衛局は守らなくてよいと命じているのである。

 係争委は申出を受けた後、90日以内に勧告等の措置を行うことになっている。8月30日までに判断が示される。知事選告示日の8月25日前後になる(投開票は9月11日)。係争委は国交大臣に「是正指導」を取り消すよう勧告するべきだ。

  *  *  *

 係争委が却下の発表を参院選後にしたのは、県民の怒りが基地容認候補に不利になることを恐れたからだ。「国策」のために、地方自治体をないがしろにする権力の濫用を徹底的に批判しなければならない。地方自治を守るうえでも、「不当な関与をやめよ」と全国から闘いを作ることが、沖縄県知事選勝利を確実にする。
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